「センパ〜イ。コーヒーどうぞ」
ウラタロスがナオミから受け取ったコーヒーを運び、モモタロスの前へと差し出した。
「なんだよ、気持ち悪いな。また何か企んでるんだろ?」
「まさか!この前の戦いを見て尊敬し直したんですよ。いやぁ、さすがセンパイだなぁ」
「怪しい…」
疑いの濃い表情でウラタロスを見やる。
「そうだよね…僕、ずっとセンパイを誤解してて酷いことばかり言ってたから、信用してもらえなくて当然だよね」
ほろりとなりそうな雰囲気のウラタロスにモモタロスは動揺する。泣かれでもしたら、自分がいじめているみたいで気分が悪い。
「いや、まぁお前が改心するなら俺だって先輩としてだなぁ」
「ありがとう、モモタロス!やっぱりセンパイは器がデカいなぁ。こんな僕を許してくれるなんて」
「そりゃオレサマともあろうものが過去になんてこだわるような性格してねぇんだよ」
少し離れたテーブルで座っていたハナは呆れた顔を向けた。
「エイプリルフールだからってウラタロスも朝から飛ばしてるわね。言ってることなんてほぼ全部信用できないわ」
「嘘は良くないと思うけど、まぁモモタロスもいい気分なんだから良いんじゃない?」
「バッカみたい。気付かないモモもモモよね。ウラの恰好のカモじゃない。しかも過去を変えるのがイマジンの目的なのに、過去にはこだわらないな〜んて言っちゃって、馬鹿の上にイマジンとしてダメよね」
「もうっ、ハナさんてば、モモタロスが過去を変えちゃったら困るでしょう」
ハナの毒舌に良太郎は、あはははと乾いた苦笑いをするしかない。
だが、ハナに好き勝手言われているなど気付いていないモモタロスがウラタロスの口車にのせられて弾んだ声を上げた。
「そんなに俺のことが好きか!そうかそうか」
「はぁ?何言ってんですか?大嫌いですよ」
真面目な顔でウラタロスは返す。
「だーっ!!やっぱり全部嘘だったのか?!」
「嘘じゃないですよ」
「でも嫌いだって…あーッ!やっぱテメェは信用出来ねぇ!」
一変した様子にハナが不思議そうに言った。
「あれ?もうからかうの止めちゃったのかしら?結構あっさりしたものね」
「違うよ。あれはね…ううん、何でもない」
「途中まで言ったんなら最後まで言いなさいよ」
失言だったと良太郎は反省して言う。
「どう言ったらいいのかな…?ウラタロスは嘘をつくけど、とっても正直なんだよ」
「良太郎ってウラのこと高く評価しすぎなんじゃない?アタシはそこまで信用できないわ」
「だってモモタロスと同じくらい解りやすいよ?」
「やっぱり特異点は何か違うのかしら?」
「何も違わないよ」
「あんなの二匹も飼えるくらいだから何か違うんだわ」
「僕は二人より強いハナさんこそ凄いと思うよ」
「ふん、アイツらがだらしないだけよ」
「そうだね」
それは違うのではないかと言いたかったが、否定してどうこうなるわけがないので大人しく良太郎は同意をしておいた。
翌日。
昨日のあれは何だったのだという話題で、ウラタロスとモモタロスは対峙している。
それしかやることがないのかと言いたいほど…いや、実際やることはないのだが、ちょっとした喧嘩は絶えない。
「いやだなぁ、昨日はエープリルフールですよ?つまり全部ウソ。本当にモモタロスは単純なんだから」
「コノヤロウ!ふざけんな!!」
「やるんですか?いいですよ」
「止めなさい」
両方にハナの手加減ない鉄槌が入り、俄かに中断した。
「毎度毎度同じ展開でよく飽きないわね。バカモモは騙されすぎ。ウラも面白いのは解るけど、ほどほどにしてちょうだい。煩くてかなわないわ」
「ハナクソ女のくせに生意気…ぅがッ!!」
裏拳を顔面に喰らってカエルの潰れたような呻きを上げひっくり返った。
「ハナちゃんがそういうなら止めようかな」
「嘘だったら承知しないわよ?」
睨まれてウラタロスの身が竦んだ。
「ハナさん。そんなに言わなくてもウラタロスも分かってるから。ね、ウラタロス」
良太郎の言葉に同意してコクコクと頷く。
すると「分かったならいいわ」とハナが席に着いてくれたので、ウラタロスの肩の荷が下りた。
「ウラタロス。どうして嘘つくの?昨日だって…」
「良太郎。モモタロスに言ったら怒るよ」
「嘘つかなきゃもっと仲良く出来るのに。でも、ウラタロスがそれで良いなら良いよ」
嘘は真実の逆であることに皆も早く気付けば良いのにと良太郎は思う。そうしたらウラタロスの対しての印象が変わるだろう。
しかし本人がそれを望まないのなら良太郎は何もしようとは思わない。
だって、今日もこのデンライナーの中は平和なのだから‥‥。
おわり