ウラタロス×モモタロス
小説 HONEY様

『喧嘩に被る笠はなし』




デンライナーの食堂車から今日も賑やかな声が漏れ聞こえてきた。

「テメーはッ、一々揚げ足取りやがってムカつくんだよ!」
「別に僕だって揚げ足は取りたくないけど、あまりにモモタロスが頭弱いから言いたくなるんだよねぇ」
「何だとぉ?!」

赤い姿のイマジン・モモタロスと対象的な青いイマジン・ウラタロスの口喧嘩は、顔を合わせれば起こるほどの日常茶飯事のため誰も止める人がいない。
何度止めても再発するので仲裁に入るだけ労力の無駄と諦めているためだ。
唯一欝陶しいからと言って止めに入る者もいるのだが、今はデンライナーに乗っていなかった。

ドタバタと子供のレベル並みの二人の喧嘩を目の当たりにして、リュウタロスは起きてるのか寝ているのかも判断出来ないキンタロスへ問い掛けた。

「ねぇ、止めないの?」
「男同士の決闘に割って入ったらあかん。思う存分、拳で語りあって理解していくもんや」
寝てはいなかったキンタロスは自分の答えに感心しきった様子で頷く。
「ふぅん、そういうもんなんだ」
「そうや。喧嘩するほど仲が良いともゆーやろ?」
そっか、と捻くれた性格をしている割には、言われたことを鵜呑みにしてリュウタロスは頷いた。
「ちょーっと待ったぁ!クマ公!リュウタに間違ったこと吹き込むんじゃねぇ!喧嘩は仲が悪いからするもんだ」
「イヤだなぁ。僕、センパイのことを嫌ってなんてないですよ?」
「カメは黙ってろ!」
ピシャリと遮られたウラタロスはキンタロスに標的を変える。
「僕はセンパイと仲良くしたいだけけなのに、どうして冷たくされるんだろう。僕、悲しくて…うぅっ」
顔を手で隠し、わざとらしい泣き真似をするウラタロスをモモタロスは白々しく見遣ったが、キンタロスには効果覿面だった。
「泣くほどモモタロスが好きなんやな!よっしゃ、そういうことなら協力するさかい、もう泣くな!」
これで涙を拭けといつの間にか出した紙をウラタロスに差し出した。
「ありがとう、キンタロス!」
感動の友情シーンっぽかったのはそこまでで、ニヤリと笑んだウラタロスは事務的にキンタロスへ命令する。
「じゃあ、キンタロス。センパイ捕まえて」
「任せとき!」
「ねぇ、男の喧嘩に手を出さないんじゃなかったの?」
リュウタロスがキンタロスの行動に問い掛ける。
「これは喧嘩やない!友情のためや」
熱血体育会系のキンタロスは疑う様子すらない。
「二人がかりでやる気か、おい?!」
「大人しくしてればすぐ済むから」
「何がすぐ済むだ!俺が大人しくやられると思…ッ」
「だからキンタロスに頼んだんだよ。キンタロスよろしく〜」

ガシッとキンタロスの太い腕で後ろから羽交い締めにされたモモタロスは、身の危険を感じて焦った様子で暴れる。
だが力で敵うわけもなく、背後から離れようとしない。
そこへウラタロスが緩慢な動きで近付いてくる。

「やっぱりキンタロスは力だけはあるねぇ。羨ましいよ」
本能の勘で不穏な雰囲気を察して必死でもがいた。
「離せ、クマッ!」
「あかん」
「カメ公、テメ…」
悔しげに目の前のイマジンを睨み付けると、突然隣車両へ続くドア付近をウラタロスは指差した。
「ああっ!あれ、何?!」
皆が一同に指差した方向へ集中する。
モモタロスもうっかり顔を向けたのだが、一瞬の内に引き戻された。
焦点が合うより早く青い物体が近付き、モモタロスに触れた。
「なんや、何もないで?」
「ゴメンゴメン、僕の気のせいだったよ。あ、キンタロス。もう離しても大丈夫だよ」
「良いんか?」
「うん。もう済んだから」
ウキウキと足取りも軽くウラタロスはモモタロスの前から離れた。すでに目的は達成済みだ。
「どうしたの?この世の終わりみたいな顔して?」
モモタロスは声も出せずにわなわなと口元を震わせたまま直立して全く動かず、無邪気に声をかけてきたリュウタロスの声もほとんど耳に入っていなかった。
「ねーねー、何があったの?」
「分からん」
決定的瞬間を見ていなかったキンタロスとリュウタロスは首を傾げた。
一瞬の内に唇を掠め奪られてしまったモモタロスは茫然と焦点の合わない目を宙をさ迷わせた。
人間の行為として知識にはあったがそれを実行されたショックは隠し切れない。
そんなモモタロスにいくら目の前で手を振って見せても全く反応を示すわけもなく、動かないモモタロスに飽きたリュウタロスはウラタロスと机を挟んだ向かいに座った。
「ねー、ウラタロス。何したの?」
「秘密」
あっさり返されて、仲間はずれにされた子供のような拗ねた顔でウラタロスを睨むと、ナオミに向き直った。
「ねー、ナオミは?見たぁ?」
「リュウタロちゃん、スペシャルトッピングのコーヒー入れてあげるから、モモちゃんはそっとしておいてね」
「スペシャルトッピング?わーい!」
スペシャルトッピングの一言に手放しで喜ぶリュウタロスの頭には、今さっき起こった一件などもうどうでも良いことになっていた。唯一いっかり一部始終を目撃していたナオミは「うふふ‥‥」と小さく含み笑っただけで、コーヒーのトッピング途中で止まっていた再び手を動かし始めた。


―――小一時間ほど経った頃。デンライナーに帰ってきたハナに邪魔だと蹴られ、漸くモモタロスは正気に戻ることが出来たらしい‥‥。





→終わり


ぎゃーーーーvvvまたまた可愛いお話をありがとうございました!!
人の言う事を聞かないクマとリュウを釣ってモモといちゃいちゃに利用できるなんて
流石ウラタロス。その手管に惚れ惚れしました!!(≧∇≦)
クマとリュウはけっこう良いコンビですね!
そしてクマさんに押さえこまれてるモモにめちゃドキドキしてしまいました(照)
クマさんがこんなに使えるキャラだったなんて!!(≧□≦)目からウロコです先生!
そしてナオミさんは、やっぱり腐女子で!


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