小説 紫水 様


『仮面ライダー電王』

良×モモv
「夜叉の面を取って」

パート4 「桃は踊る!」




1、ミルクディッパー



「こんにちは~」

『ミルクディッパー』の扉が開く。

挨拶と共に現れたのは、コハナ。

「あら~ひさしぶりね~いらっしゃい、お姉さんと一緒じゃないのかしら?」

「あの、良太郎は?」


以前と変わらず、にっこりと笑って応える姉。

「今、お使いに行って貰ってるのよ。本屋さんに注文の本を受け取りに、それに銀行まで。」

「元気ですか?今でも運悪いですか?良太郎は。」

「う~ん、最近は、病院に行く事も、怪我してくる事も少なくなったかも、でも相変らずかしらね~」

「コハナちゃん今日は?」

「良太郎にちょっと見て欲しいものがあって、時間掛かりそうですか?」

「もう帰ってきて良いはずなんだけど・・・・又何か巻き込まれてるのかしら?」

「じゃ、帰ってくるまで、ホットミルクでもいかが?」

「ううん、せっかくだすから、コーヒーを。お姉さんのはとってもおいしいから」

「小さい子はだめよ、そうね、良太郎用の特別のミルクを使って、ミルクたっぷりのカフェ・オ・レにしましょう。」

「ええ、お願い。でも、特別?」

「良太郎の栄養ドリンク用よ。」

「・・・・・・・」

かつての、様々な良太郎へのお姉さんの、健康食攻撃を思い出したハナ。

ミルクたっぷりでもおいしいコーヒーの味ににんまりのハナ。



「リョウチャンデス、リョウチャンデス」

気分ふんわりのところに急に良太郎の声がして、目を丸くしてきょろきょろと探すハナ。

カウンターの上にあった携帯をおもむろに手に取り、にっこりとハナに笑いかける。

「はい、りょうたろう?何かあったの?コハナちゃんが待ってるわよ。」

「あ、ああの、実は今、銀行で、強盗が・・・・ちょっと帰るのが遅くなるかも・・・・」

「あら~、じゃあ、警察に連絡してあげるわね。大変だけど、頑張ってね?本は大切に持って帰ってね?」

「ね、姉さん、この電話に向かって、やめてって言ってくれないかな?」

「はあ?いいけど・・・」

一瞬手に持っている電話を眺めたが・・・・・小首を傾げつつ受話器に声を入れる。

「じゃあ、や・め・て。ね?」


「ありがとう、助かったよ~」

「良太郎!!良太郎のいる銀行はどこ?」

「・・・・・」

「切れたわ・・・」

「あら、コハナちゃん、ほら、パトカーのサイレンの音。大丈夫だから。」

「でも・・・」

「場所は、ここから正面真っ直ぐの通りの一つ目の交差点の角にあるわ。」

「あ、コハナちゃん。」

バタン

一刻も早くと飛び出していったハナ。




一方の良太郎は・・・・・




覆面にニット帽、黒いジャンパーにジーパン、ズック靴と典型的な悪党スタイルの長身の男。

良太郎はその男に、ナイフを突きつけられながら携帯を見せていた。

「強盗さん、ほんとでしょ?」

「ね、姉さんの声を聞くとホンワカとした気分になれるでしょう?」

「そんなに怖い顔していなくて良いと思うけど。」

「ねえ、綺麗な目が台無し、そんな覆面取っちゃってよ、僕、赤鬼も好きになるほどなんだ。」

「君のことも気に入ると思うよ。」

「ねえ、君がこんなことしなくちゃいけなくなった理由聞かせてよ。」

「や、やかましい!」

「悲しいな~折角の縁だよ。僕だけしか店内にいなくてごめんね。人質の価値もないし・・・・・」

「そ、それ以上言うな~近寄るな~」

ぶん!と振り回したナイフをはっしと両手の平で受け止めた。


「!!」


「ね、これってね、赤鬼から習ったんだ、気の良い奴でね、カッコいい赤鬼だったんだ。」

「・・・・・・・お前、弱そうに思えたのに・・・・・」



「良太郎!!」

「あ、ハナさん。今ね、モモの事思い出していたんだよ。」

「警察だ!手を上げろ!」

「あ、どうしよう、犯人さん、警察さんが来てしまったけど・・・・」

「良太郎、どこも怪我していない?」

「うん、大丈夫、久し振りだね~どれぐらい経ったのかな~別れてから、みんな元気?」

「見て欲しいものがあるの、急いで、一時間したら電車が来ちゃう。」

「え?」

「そうよ、オーナーが招待してくれたの、迎えに来たのよ。」

警官がハナと良太郎の会話に割り込んでくる。

「あの、君、ちょっと伺いたい事があるのですが。」

「貴方は黙ってて、今良太郎は時間がなくて大変なんだから。」

「あ、あの。帰ってきたら必ず行きますから、ちょっと勘弁して下さい。」

警察の事情聴取の声を振り切って銀行を出る。

見物の人だかりを掻き分け、自転車を引きずりながら抜け出した。


「相変らず災難にあってるのね。」

「あ、でもちょっと、めずらしいんだよ、やっぱり、モモの事思い出したからハナさんにも出会えた。」

「今日は運命の日かな?」


「姉さん、ただいま、電話ありがとう、これ本。そしておつり用の小銭。」

「ありがとう、じゃ、これ飲んでね。」

「・・・・・・緑?」

「あ、良太郎、私も良太郎用のミルクでカフェ・オ・レ、頂いたわ。美味しかった。」

「グリーン・オ・レ」

「新鮮な緑のお野菜たっぷりよ。」

「・・・・・いただき・・ま・・す・・・」

「あ、良太郎に見て欲しいものがあるの、DVD見られるテレビあるかしら。」

「二階に。」

「じゃ、お邪魔します。早く良太郎、それ持って、見ながら飲めるから。」

ハナは肩から提げていたバッグから袋を取り出すと、良太郎の背中を押して、急いで二階へ上って行った。


「ハナさん?」

黙って慌しくセッティングしてリモコンのスイッチを入れるハナ。

映像が映し出された。

暗い画面から映像が始まる。一瞬感謝の文が流され、軽快な音楽が流れた。

雷鳴轟く中人影が映し出されるが、はっきりとしない・・・・・


漸く姉の栄養ドリンクをいやいや飲み干しホッとした、良太郎の眼が、見開かれた。

そこには忘れもしない、今し方犯人に告白していた赤鬼が映っていたのだ。

バックライトの強烈な光に映し出される人影・・・・

そして人影にライトがあたると・・・


唄い、踊っていた。

そして更には他の亀や熊や竜たちまでもが皆映し出されていたのだ。



「モモ・・・モモタロス・・・」

空のグラスが床に転がる。

良太郎の様子をうかがっていたハナが声をかける。

「りょう・たろ・う?」


白い羽舞い落ちる中に赤鬼が映り、赤鬼はその羽をいとおしそうに手に包み込む。

食い入るように目を見張って見ていた良太郎。

「モモタロス!」
「モモタロス!」


画面に呼びかけ、更にTVに縋付く。

そうしているうちに歌は終わり、ライトに煌いた短い映像は暗転、そして・・・・・

――赤鬼の悲痛な声がした。


「良太郎~!!」



「え?こんなとこあったかしら?」

首をかしげるハナの前で、良太郎は泣き崩れた。

「も・もう一度見せて・・・今の・・・」

ハナはもう一度映し出した。

最愛の赤鬼を。

良太郎はじっと涙を拭くのも忘れて見入った。

「良太郎?」

「逢いたい、逢いたい、ハナさん、モモタロスに逢いたい、今すぐ・・・・・」

涙を零しながらハナの前で頭を下げる良太郎。


「うん、そのつもりで来たの。時間が来たら、ここを出ましょう。」

ハナが姉の愛理と言葉を交わし、良太郎は行ってきますと声をかけて扉を開けた。



「あ、良太郎、これお土産に。」

と、一歩遅れてコーヒー豆を持って追い駆けて来た愛理は、店の扉を開けた。

だが、風が髪をなぶらせただけで、コハナも良太郎の姿も見つけられなかった。

「いってらっしゃい」

どこからか名残の桜の花弁が散っていた。





2、デンライナー 車内




「オーナー、こんにちは」

「はい、来ると思っていましたよ。餌ならこれに限ると・・・」

「ウラタロスですか?」


「ええ、覚えてくれていますね?」

「一日として忘れた事はありません。彼らのことを知っているのは僕だけです。」

「僕は、元の世界でも異邦人になってしまったような・・・・・」

「僕は、モモタロスと出会えると聞きました。いまどこに?ここにはいないのですか?」

意味ありげに、にっこりと笑って胸のハンカチーフをふわりと良太郎の前で靡かせると、ぽんとステッキで叩く。

そこに、チケットが現れた。

「これはゲスト用です。とりあえずこれをお持ちなさい。」

「モモは今どこに?」

チケットには目もくれず、グッとオーナーの前に身を乗り出して聞いた。

「彼らは今ターミナルにいます。」

「ターミナル?」

「いつ?」

「ちょっと遠いのでゆっくりしていてください、一眠りできるでしょう。」

「あ、はい。」

勢い込んで聞いたが、遠いところと言われ、デンライナーに乗ればすぐにでも今までのように、出会えると思って来た良太郎はがっかりした。

「大丈夫、彼らは元気ですよ、君のおかげでね。」

「では、ハナ君、客室に案内してあげてください。」

「オーナー、ハナさんは元の世界へつながったのでは?」

「良太郎君?君は、全くモモタロス覚えていない世界にいますか?」

「こうして私と出会って喋っている君は、本当に何も知らなかった元の世界の住人ですか?」

「それは・・・・・」

「りょうたろう?」

そっと後ろから良太郎の手を握ったハナは前に回り言った。

「元の世界にモモはいないのよ?モモを知らない良太郎なのよ。」

「モモの姿を見て泣き崩れた良太郎はいない・・・・」

「うん、そうだね。本当の、望んだ元の世界に戻ったら・・・すべてを忘れているんだね?」

「そんな世界に僕はもう戻りたくない。」

「オーナー、一休みしてきます。おやすみなさい。」

「はい、楽しい事が待っていますよ。」

客車の扉にチケットを翳す。

「変わってない・・・・」

「時間になったら呼びに来て上げる。」

「うん。ハナさん、ありがとう。だいじょうぶだから。」


シュッと扉が閉る。







3、ターミナル





「ああ、かわっていない!」

ターミナルのホームに降り立った良太郎は、思わず呟いた。



背後からこれまた聞き覚えのある声がした。

「ごきげんよう!良太郎君!お待ちしていましたよ~!」

『ふふ、このターミナルの駅長も変わっていないや。前のまま・・・すべてが懐かしい。』

「こちらですよ、君のおかげで、このつまらないターミナルが賑やかになりました。」

「ただの破壊神のイマジン達がここまで使えるとは思いませんでしたね~。」

「御覧なさい」

【大ホール】

と表記された正面扉を開く。

真正面から光と、音の洪水が良太郎を襲った。

「今日はありがとうよ!」

「彼女達、又釣られに来てよね。」

「泣けるぜ!」

「又来てね、答えは聞いてない!」

歓声の中、観客席の真ん中の花道を通って良太郎の前にやって来た奴らは・・・・




先頭を歩く者の足が止まった。

「モモ・・・」

「りょう・・・たろう・・・?!」



再び彼らは出会った・・・・








4、モモタロス






もう後は覚えがなかった・・・・・

とにかく歓声を上げる4人のイマジンに抱え挙げられたまま楽屋へ・・・・



5人はとにかく喋った、別れてからの事を。

そして、

「時間ですよ~キンタロスさん、ちびっ子たちがお待ちですよ~」

「ウラタロスさん、教室でお嬢様たちがお待ちです。」

「リュウタロスさんも、坊や達が待ってますよ、レッスン室で。」


その声にそれぞれが良太郎を残して散って行った。

「みんなどこへ行ったのかな?」

「熊はちびっ子と相撲の時間。」

「亀は茶~か、花か?なに教えてンのかね~引っかけまくってるよな~」

「くそガキはダンスらしいぜ。」

「ふ~ん、じゃ、モモ、君は?」

「フン、誰が喧嘩を教えてくれって奴がいるかよ!」


椅子にふんぞり返って足をテーブルに投げ出している・・・・

「じゃあ、モモは僕だけのものだ。」

「お?おう!」

「僕は、君の事を思い出さない日はなかった。寂しかった・・・・・」

「あの時を共有している人がいないから・・・」

「僕の赤鬼、ハナさんが持ってきたDVDを見た。吃驚した、そして泣いたよ。」

「君がいた。もう出会えないと思っていた君が目の前で楽しそうに歌って、踊って・・・・」

「楽しい毎日なんだね?」

「良太郎?」

「良太郎、てめえだけじゃねえ。俺達だって同じだったんだ。」

「やつらと毎日毎日電車の中で思い出しては最後は喧嘩になった。」

「へへ!誰が一番強かったか?とか、良太郎のお気に入りか?って下らん事ばっかり言い合って、取っ組み合いばっかり・・・・」

「良太郎が抜けた穴は俺達だってきつかった・・・・そしてとどのつまりは。」

「デンライナーからオーナーに追い出されたんだ。ターミナルの駅長預かりってやつさ。」

二人きりになって、モモの隣に座った良太郎は、モモの話す事に引き込まれた。

「あのオーナーそっくりの顔の駅長は食わせ物だったんだぜ~。」

「俺達に囁くんだ。君たちの良太郎君とイマジンたちとの戦いの一年に渡る友情物語は録画してあります。」

「そして、提案して来たんだ、良太郎君の為にCD、DVDを作りたいと。良太郎に見せてやりたいと。」

「君達がCDを良太郎君と共に録音して出したことは知っていますよ~。オーナーから頂きましたからね~」

「上手いじゃないですか。とか言いやがって、亀たちをその気にさせやがって。」


良太郎はふっと笑い、どうしたの?とでも言う様に小首をかしげた。

正面から見られ、モモタロスは一瞬言葉が詰まった。

ちょっと照れて赤くなって、頭を掻きながら続けた。


「あ~~で、まんまと乗せられてやったんだぜ?」

「良太郎君が寂しくならないように色々と作りましょうね~と恩ぎせがましく言いやがって。」

「格好よかった、本当に涙が出たよ。」

「それに,最後にモモが僕の名前を呼んでくれた。それでここへ来る決心をした。何が何でも会いたいって。」

「今どこまで録画しているのかな?それに今日みたいなステージをいつもしているの?」


「あ~、ちょこちょこ・・・」



ガラッ!!


「せんぱあ~い!!」

ノックなしで扉が開き、少しモモタロスに寄りかかって喋っていた良太郎は、吃驚して身体を離した。


「なに?」

「てめえら!いつもノックして入れって言ってるだろ!挨拶ぐらいしろ!!」

モモタロスが立ち上がって昔のように大声で怒った。


「イ・イマジン?」

そこには、今まで良太郎が見たこともないイマジンが、数人並んで身をちぢこませていた。


「手前ら、いつも言っているだろう、俺の大切な良太郎だ、挨拶をしてさっさと出て行きやがれ。」

「今日の練習は休み!わかったな!」

「はいっ!!失礼しました!!」

ペコリッと頭を下げてそそくさと出て行った。


「なんだか部活の先輩と後輩みたい。彼らはどうしたの?何でここにいるの?みんな消滅したんじゃないの?」

「しまった。あいつらに飲みもんでも持って来させれば良かった。」

と言いつつ、どっかと又腰を下ろしたモモタロスは、ここに座れと言うように良太郎に向かって指で示した。

「つまんねえことを押し付けられちまってよ~やつらはあの馬鹿なカイの置き土産だよ。」



しばらくして、コンコンと小さく扉がノックされた。

「おうっ!」

「失礼します。」

と言いながら先ほどのイマジンの一人がお盆を持って入って来た。

「粗茶です。」

「おう、そこに置いてくれ。よく気が付いたな、褒めてやるぜ。」

「ありがとうございますっ!」

と、とてもうれしそうに、にっこりと笑ってそれも頬を染めていた。

良太郎はそのイマジンをまじまじと見つめてしまった。

礼を言うイマジンに。

戦う事ばかりだった良太郎にはまるで別の生き物のように思えた。


「良太郎、どこを見てる、俺はこっち、てめえはもう下がって良いぞ。」

「はいっ、失礼します。」

礼儀正しく一礼をして出て行った。



「今のはもしや、ウサギ?イマジン?」

「あたり。羊もいるぜ、それも弱っちいのばっか残ってやがってよ~。」

「なぜか、カイの馬鹿に誘われ喜々して来やがって、来たは良いけど戦闘レベルや意欲がなくてウロウロしているうちに消滅しぞこねたらしい。」

「結構残ってるらしくてよ~参るぜ。」

「オーナーが後始末に時を越えて集めに回りやがって、俺に押し付けやがったんだ。」

「可愛いじゃない。悪さはするの?」

「ちょろちょろとな。たいしたことは出来ねえが、小物でも集まるとな、厄介事を起こしたがる。だから俺が監
督するはめになった。」

「俺が一番暴れたいのにな~。」

「何で、やって良いこと悪いことを俺様が教えなきゃならないんだってんだ。」

「なあ、良太郎、又俺と一緒になってくれよ~身体が鈍ってしょうがねえよ~暴れたいよ~」

「それは又苦手な事を・・・」

「そう思うだろう?」

「仕方がねえんでリュウタロスのステージのバックで踊らせたり、イマジンと4タロスとの電王ショーとか銘打ってのイベントかをやってるんだ。」

「ほんと、あのオーナーと、駅長はクセもんだ。くそっ!」

思いっきり背もたれに身体を押し付けるように上半身を反ってイライラをぶつけているモモ。



そんなモモタロスの様子を見てポツリと良太郎は呟いた。

「でも、楽しそうじゃない。可愛いイマジンがとっても懐いてる。こんな、お茶やお菓子まで持って来て。」

「さっきのイマジンきっとモモが好きなんだ、頬染めてたもの、もててるんだ。君はイマジンの中でも格好良いと僕も思うもの。」


「良太郎?」

「君のことばかり思っていた僕が哀れだよ。」

「君は君でうまくやってたんだ。イマジン達の頭でさ。お山の大将も楽しいだろうね。」

「僕ほど君は僕を思ってくれてなんか居なかったんだ。あのDVDもよく売れるだろうね?」

「良太郎!!」

良太郎の肩を掴み揺すった。

「何言ってやがるんだよ。お前らしくもねえ。こんなことで動じる玉じゃねえだろう?」

「別れが長かったんだ・・・・」

ばっとモモの手を解くと部屋を出て行った。

「良太郎!!」

後を追うようにドアを開けた。



「痛いっ!モモの馬鹿!」

「リュウタ、良太郎は?」

ドアに頭をぶつけたらしく擦りながら、モモを睨みつけた。

「泣いてた。良太郎を泣かすモモは馬鹿だ。」

「だからどこへ行ったんだ。あいつはここをあんまり知らねえんだぞ!」

「モタロスが探しに行けばいいんだ。」

「くそっ!」

「良太郎~!」

モモはリュウタロスの横をすり抜け走って行った。


「良太郎、もう良いよ~」

「ありがとう」

リュウタロスダンサーズの後ろから出て来た良太郎。

「みんなはどこに行ったの?」

「じゃ、一緒に行こう、良太郎とは久しぶりだしね、さっきはみんな一緒であんまり話せなかったし。」

「お前達はいいよもう、又明日ね~」

「はい、ありがとうございました~」


一礼をして散って行く彼らを見ながら良太郎は

「みんなはイマジンの面倒を見ているの?」

「僕はダンスだけだよ~モモが責任持ってやってるよ~」

リュウタロスは、くるくるあいかわらずリズムや回転を入れながら軽やかに歩いていく。







5、亀、熊、竜




「ほんと人っていろんな想像力を持ってて吃驚したるんだよ~」

「それに、人がこれは戦わない愛玩用のもの、って思ったやつらは戦えないんだ。」

「それに、好きなペットのように思われたものたちは消えなくて済んだらしいってオーナーが言っていた。」



「あ、熊ちゃ~ん、良太郎がさ~モモに泣かされてたんだよ~」

リュウタロスが手を振って呼んだのはキンタロス。

「なんやて?どういうことなんや?いうてみい?」

「話の中身では一発股引きを絞めてやらんとな~良太郎を泣かすやなんて馬鹿なやっちゃ。」

ぽんといつものクセで横っ腹を叩いた。そのひさびさのキンタロスの態度に、良太郎はふふっと頬をゆるめた。
 


「ねえ、亀ちゃんどこにいるか知らない~~」

「教室の後でも好みの娘と茶でもしてるやないか?」

「みんな、もう僕のこと余り思い出さなくても良いようになったんじゃない?」


「良太郎?何言うてんや?」

「お前がいてこその俺らや、やっぱりそう思わせてるモモを締めてやらんとあかん!許せん。」

「ここ入って待ってようか?待合室の一つや。勝手に周囲が変わってくれて面白いんや、飽きへんで。」

キンタロスは椅子に腰掛けるように勧めた。

そして、少し昔を思い出すように目を瞑っていたが、おもむろに口を開いた。


「あんな、良太郎?」

「俺らはお前によって生かされたんや、消えても満足やった。前にも言うたやろ?」

「でも、カイのあほが消えても俺らは残った。」

「お前との出会いと俺らの過ごした時間の記憶のお蔭や。」

「喧嘩しいつつも、俺はモモも亀もみんな大好きや、カイがいてくれたから、それが判ったんや。」

「カイを、ぶん殴ってでも目え覚まさせてやれば良かったんやないかと、最近亀と話したりしてるんや。」

「俺らがこの世界にやって来た事も、元の世界で俺らは何を思うて存在してたんかも、もう俺らには判らへんの
や。」

「駅長や、オーナーは何か知ってるのかも知れへんけどな。」

「だから、今残ってるイマジン達をカイの代わりに何とかしてやらんとな~ってな。」

「あのワルのモモを改心させた良太郎が、何心細い事言うてるんや。」

「一発、もうモモの事は知らん、って言うてみい、泣きついて来るでえ。あはははは!」



「へえ、その案乗った。いいねえ、キンちゃん。きっところっと騙されるんだよね~先輩は。」

座って腕組みして豪快に笑っていたキンタロスの声に、ウラタロスの声が被さった。


「あ、ウラタロス。」

「さっきは許してや、良太郎、約束の時間だったもので、ゆっくりと喋る間なくて」

「さっき、リュウタロスの子分が探しに来て、大変だからって。」

「どうかしましたか?先輩と何かあった?」


良太郎のそばに座り込んで下からのぞき込んで来る。

「その涙の痕、気になるよ、目が真っ赤だよ。」

「それが僕の為じゃないなんて、悲しいよ。先輩が原因?」

「話したら落ち着くよ。」

「ううん、もうだいぶ落ち着いたから。キンタロスに色々と聞いて貰って、教わったし。」

ウラタロスはキンタロスの方を向いて声をかけた。

「へえ、キンちゃんやるじゃない?」

「男は中身や。」

「はいはい、そうしときましょ」


「ウラタロスは何していたの?」

「今日は、ダイビング教室。」

「?、海で潜るやつ?」

「そうだよ、誰かさんみたいに泳げない人相手じゃなくて、潜って海中を楽しむ方法を伝授してるんだ。」

「時の流れの中で旅するのは、退屈だからね~」

「釣れる?」

ふふっと笑いかけた。


「良太郎の笑顔ほど心惹かれる人にはまだ出会ってないけどね。」

「良太郎、これから潜ってみない?」

肩を抱き立ち上がらせようとする。


「僕でなくてもいいんでしょ?」

「良太郎?」

不審に思いキンタロスと、リュウタロスの方に顔を向ける。

「モモの馬鹿が何か言ったんだ。良太郎に、それで泣いてたんだ。」

「もういいよ。大丈夫。」

「大丈夫じゃないよ、この僕にも詳しく話してご覧よ。」


もう一度腰を落ち着ける。良太郎も座らせる。

「良太郎?大好きな、大切な君が泣くなんて堪らないよ、話してご覧よ。りょう・た・ろ・う?」

肩を抱いたまま、そっと名前を呼ぶ。極上の誑し声の威力が発動された。

「――君たちとの思い出が、僕を弱くさせる。」

「――先に進むのが怖い。」

「もう出会えないと思っていたから、なんとか毎日を生きて来たけど・・・・」

「君たちとの出会いがあって、一緒に戦って来た時間があったから、その記憶が、思い出が、僕に勇気をくれたから、変われると思った。」

「でも・・・・色々とあって、相変わらす運の悪い良太郎のままだ。」

「モモタロスは可愛いイマジン達を侍らせて嬉しそうだし。僕がいなくても平気そうだ。」

とうとう床にへたり込んで膝小僧を抱えてうなだれてしまった。



3タロスは暫らくかける言葉がなかった。

事実、モモタロスは忙しかった。

拾われて来たイマジン達や、自分達の毎日の過ごし方や、人との接し方など色々と采配してくれていた。

でも、それは反対にモモタロスが、自分をそこまで追い込まなくてはならなかったことも思い出した。

モモタロスもまだまだ、良太郎という押さえを、ストッパーを欲していた。

良太郎のいない心細さを隠して痛々しいとウラ達は知っていた。

それをどう言ってやれば良いのか・・・・




ちょこんと良太郎の前にしゃがみこんでリュウタロスが喋りだした。

「良太郎と別れてから、モモタロスは怒りまくって、僕たちとも喧嘩ばっかりだったんだ。」

「怖かった。良太郎がいなくて、お姉ちゃんにも出会えなくて、車掌にもなれそうもなくて僕どうして良いのか判らなかったのに。」

「モモタロスは怒ってばっかりで、あの時のモモタロスは嫌いだった。」

「ね、亀ちゃん熊ちゃん、みんなもそうだったよね?」


「荒れてたんだ・・・・」

「僕たちの中で、一番たえてたんだ。一番良太郎と繋がっていたから。先輩も子どもだったんだよね。」

「ハナさんが散々殴ってたよね。でも前みたいにやり返せなかった。殴られっぱなしで・・・・・」


「オーナーが又出会える、て、期待を持たせたから余計やったと思うで。」

「しばらくして、もう良太郎の世界にむやみに干渉できんいう事が判って・・・・・」


「あ、ハナさんは?元に戻ってないんだけど・・・・」


「俺らのあほな頭では判らんのやけどな、別れた時、良太郎は俺らの記憶を持ったままやったやろ?」

「本当に元の世界やって言うんやったら、おかしいやろ?」

「――全く元の世界ではないという事?」

「それで僕たち気付いたんだな、もしかしたら又いつか良太郎に出会えると。」

ウラタロスの言葉を引き継いで、

「それに、僕、手紙の代わりに絵を描いたんだ。いつか渡せたらって。」

「そしたら、オーナーが、ターミナルの駅長と一緒にビデオレターにしませんか?と言って来たんだ。」

「見せてあげればいいじゃありませんか?って。という事はいつか又世界が繋がると。」

「だから僕はいっぱい絵を描いた。」

「でもモモタロスはずっと怒っていた。オーナーに騙されたって。」


「モモ先輩が荒れてデンライナーの客車を傷つけて、僕達みんなにも、オーナーから退去命令が出てしまったんですよ。」

「そして、ターミナルの駅長の元へ追い出されてこき使われていた時にね、久々にデンライナーが入庫したな~と見ていた時でしたね。」

「駅長から、呼び出されて。」

「散らばって、小さな悪さをしでかしていたイマジン達の面倒を見ろと。」

「自分達のしでかした始末をつけるように言われてどうしようかと思いましたね。」


ほ~と、その頃の事を思い出しているのか、こめかみを指で押さえ頭を振ったウラタロスの言葉を、リュウタロスが引き継いだ。


「僕はやっつけちゃえばいいって言ったんだ。良太郎を苛めたんだから。お姉ちゃんの恋人もいなくなった原因作ったんだから。」

「それで?リュウタロスはそうしたんだ。」

「ううん。」

良太郎の横で、髪の毛のような紫の房が左右に揺れた。

その房を手の平ですくって聞いた。

「じゃあ、僕や、姉さんに酷いことした、イマジン達をどうしたの?」

「大ホールに放り込まれていた、沢山のイマジン達をじっと見ていたんだ。あいつは・・・」


「一番高い所から一晩ぐらい黙って見つめていましたね。」

「僕も先輩には声をかけられない感じで、すぐにでもソードを抜いて消し去るのかとひやひやしてました。」

「初めは右往左往して喧しかったイマジン達もさすがに気付いたのですよ、高見からじっと注がれる殺気に。」

「良太郎、凄いんだよ、モモタロスは黙らせたんだ、一言も言わずに、何もせずに。」

「負けましたね。先輩には。」

「そうや、わいも漢を感じたんや。」

「りょうたろう?僕ね、モモタロスと一緒にいられて嬉しいよ。格好いいモンそれに何か面白い事も見せてくれそうだし。」

「良太郎が羨ましい。モモタロスの心独り占めだもん。」


「それでモモはどうしたの?」



「てめえらの面倒を見る。」

「そう、あの声で、ホール中に響いた、低く、冷たい色気の滲む声で、てめえらの面倒を見る。と一言告げたんですよ。」

「そうしたら、ザッと先輩の方に靡いたんだ。頭を下げてるんだよ。自分勝手なイマジン達が・・・・」

「一匹残らず面倒を見るから、消させないとオーナーたちに掛け合ったんですよ。」

「イマジン達はもうモモに釣られてしまったんや。な、亀の十八番が、な、形無しやったな?」

「僕では無理だと思ったから、先輩を手伝ってるじゃない。」

「このことで、僕は先輩には口惜しいけどかなわないと思った。


「そういうことや、奴らを好きで侍らしてるわけやない。良太郎のことばかり考えていられん状況やったんや。
俺らが証明してやるで、モモタロスはお前なくしては生きられんやっちゃ。」

ポンポンと良太郎の頭を柔らかく叩くキンタロス。

抱いていた肩をなだめるように、安心させるように叩くウラタロス。



「赤い色がない・・・・」

「もうすぐ来るって。」

「探して来て上げようか?」

「ま、ゆっくり待ちいな。」


「ううん、僕が行くからいい。みんな、ありがとう。」

良太郎は、立ち上がって、頭を下げた。

「良太郎?おれらには、今いるお前さんの時間の世界には行けへんだけや、いつもお前さんを思うてる。」

「オーナーにでも掛けおうて、どこからでも通じる電話でも作らせるしな。待っててや~」

「ねえ、ねえ、僕らも良太郎の世界でステージやりたいね~ゲストが良太郎で、踊りたいな~。」

「前みたいに世界をぶっ壊すなんて悪いことしなければ良いんでしょ?」



「そうだね、みんなを知ってくれる人が増えたらいいね。」

「それが出来るんですよ~」

「わあっ!でた~!!」

突如響いた声にみんな飛び上がって驚いた。

肩を組んで背後から歩いて来た、双子のように似た男二人・・・・イマジン達には恐ろしい存在が。

「ちょっと来て頂けませんか?みなさん?」

「ちょ~と待てい!おっさん!良太郎達をどこへ連れて行く気だ!!この俺様の了解も取らずに。」

「いつまで俺をないがしろにすれば気が済むんだよ!!」

「せんぱい!」

「モモ!」

良太郎はモモタロスの元へ走って行く。そしてモモタロスの腕を掴んだ。

その様子をみんなはやさしく見ていた。

「ないがしろなんて、では、モモタロス君も一緒に、面白い事を教えて差し上げますよ。」

「モモタロス~さっきはごめん。」

「良太郎、俺も悪かった。久し振りに二人になれたのに、あんなやつらのことばかり喋って、これでもお前の事
を思ってたんだぜ?」

「ハイハイ、続きは後にして下さい。隣の映像室なんですが・・・」





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(後編はウラです)