背伸びもできない? 
      
異野鳴之





風見ハヤト、15歳。

サイバーフォーミュラのチャンプで学生で、これで彼はなかなかに忙しい。
だが、ブリード加賀の方がたぶんその何倍も忙しい。

自らレーサーとして全米を転戦しながら、未来のチーム作りのために日夜奔走し
ている。

そんな人間離れしたスケジュールをこなす加賀と一緒に過ごせるとなれば、
なりふりなどは構っていられない。

今日もせめてものデート気分を味わいたいばかりに、加賀の買い物に無理やり同
行し、

ずっしりと重い買い物袋を両手に持たされては、ささやかな幸せを満喫していた。

「悪いなハヤト、重いだろ」

健気な後輩に、加賀は優しい言葉をかけてくれる。

その手にはハヤトと同じくらいの荷物を抱えていたが、

不思議と軽々とした印象で足取りもとても軽快だ。

「ちょっとね。でも全然平気だよ」

微妙な強がりに加賀は苦笑したが、ハヤトは気づかなかったようだ。

「少し休むか」
と、加賀が言ったので、近くにあったファーストフード店で一息いれる事にした。

比較的空いていた店内の喫煙席に、やれやれと腰を降ろす。

ハヤトが二人分のハンバーガーとポテトと飲み物を持ってテーブルに戻ってくる
と、

加賀がレザーパンツのポケットからシガレットケースを取り出していた。
「…加賀さん、煙草なんて吸うんだ」
「んー?」

初めて見る加賀の姿にハヤトは戸惑いを隠せなかった。

加賀は慣れた仕草で煙草を口にくわえ、火を点ける。
「1本だけ、勘弁な」

未成年のハヤトを気遣ってか、そんな事を言って悪戯っぽく笑う。

ハヤトから返ってきたのは、まるで身の入っていない生返事だけ。

気持ちに正直なその大きな目は、既に加賀の一挙一動に釘付けになっていた。

煙草を口元に運ぶ細い指が、いつにも増して綺麗に見えてしまうのはなぜなのだ
ろう。

紫煙を燻らせる度に、僅かにしかめられる形のいい眉。

伏目がちになれば、長い睫が更に際立ち、目元に影を落とす。

何の事はないはずの喫煙のシーンも、加賀独特の色気と雰囲気に溢れ、
ハヤトを魅了せずにはおかなかった。

「加賀さん…かっこいい」
うっとりと、ハヤトは呟いた。

心の底から漏れ出したその言葉に、加賀があぁ?≠ニ怪訝な目を向ける。

「加賀さん、俺も煙草吸いたい」
「ばーか、後30cm背を伸ばして20kウエイトを増やしてからにしろ」
「ちぇー」

素っ気無くあしらわれて、不満そうに頬を膨らませる。

加賀さんだってそんなに華奢なままのくせに、というのは絶対に口に出せない禁
句。

膨れっ面でコーラを啜っていると、加賀がちょいちょいと人差し指でハヤトを呼
んだ。

「はい?」

素直に身を乗り出せば、加賀の綺麗な顔がついと寄せられる。


ふいにハヤトの周りから雑音が消え、時間さえ一瞬止まった気がした。


テーブル越しに、軽く触れた柔らかな唇─────。


甘美な感触だけ残してそれはあっさりと離れ…。


「煙草代わりにこれで我慢しとけ」

からかうように言う加賀の口には、もう元通り煙草が咥えられている。

中途半端に飴を与えられ、ハヤトはどうしていいか分からない。
「ずるいよ、加賀さん」

顔を赤くして文句を言ってみたら、楽しそうに笑われてしまった。
ひとしきり笑いながら、加賀は煙草の火を揉み消した。


後にはただ、わずかなほろ苦さが、ハヤトの唇に残されただけだった。



【END】


「どうしていいのか分からないのは私です…
ああ…、ありがちなネタでごめんなさい。
そしてこれはハヤ×加賀です。いや、マジでマジで。」
…と鳴之会長のコメントですが、可愛いハヤ加賀をありがとうございます(≧∇≦)
まだ15才の頃のハヤトはこんな可愛かったんですねえ(遠い目…)
それがいまや…(笑)