「ムウ様!貴方はここまで来ても、思い出されないのですか!あの・・・ラウ様のことを!」

「あの火事のことも!ラウ様が自分と同じレイという存在の為に心砕かれた事も・・・」

「貴方の父親の所業の為に・・・・あなたが跡継ぎを逃げた為に・・・」

「もう、フラガ家は、フラガグループは貴方を逃がしませんよ。」

ムウの犠牲になった者達の事を知っていたからだ・・・彼らに施されたことを・・・・
辛さを感じて欲しい・・・と。

ついに思い出さなかったムウを許せなかった・・・
夢の中だけで思い出していても、結局ラウのこと、レイのことを現実として思い出さなかったからだ・・・・

軍の研究員から聞くと、軍で施した記憶操作も全部リセットされてしまっていたとか。
意識的に?無意識に?忘れてしまいたかった事なのか?

指揮官として乗艦して来た艦の名前や艦長、少年兵のエクステンデット達の事も忘れてしまっているとか。

ここまで不甲斐無い、恐怖に打ち勝てないのかと・・・・

ラウ様があれほど心砕いておられた人物は、アル様の本当の子供は、腑抜けになってしまわれたのか?

ならばそれでも良い。もう思い出さなくても良い。

ただ、夢は事実であり、資料にあることは思い出さなくても今から覚えておくように申し渡した。
そして、そうしなければ、ここから出られないことも。
ラミアス嬢にもお互いが、これを事実と認識していただいて、覚えていただければ、婚姻届を出しましょうと約
束した。






ムウ・ラ・フラガ様、ご主人様への、これが最後の手がかりです。

私宛に彼が送って来たメールの一つです。私は彼に申し訳なく、涙しました。
貴方をずっと見続けて来た人です。本当はこの人だけでも思い出して欲しかった。



『お久しぶりです。いまだこのアドレスをお使いの事感謝致します。

仕事の関係で今地球に滞在中です。明日の夕刻プラントに帰国致します。

本日、自由時間がありましたので、彼のいる空軍基地に見学という形で出掛けて来ました。
私が医療関係者の地球会議出席者という資格のお陰で、見学者として受け入れて頂けました。

幸い、彼の訓練終了の帰投時間と合いました。
彼の戦闘機の飛行の様子も見て来ました。
見事な飛行に黙って見るだけと思っていたのですが、やはり、声を掛けたくなりまして。

「凄く綺麗に飛んでいたね。見ていて気持ち良かった。」

「トップガンだって?君は戦場で沢山の人々を殺せるかい?」

「知ってる?これは人殺しの為の道具なんだよ?分かって乗ってるの?」

こんな失礼な声を掛けた訪問客に、彼は真面目に応対してくれました。

「戦争したくて乗ってるんじゃない。そう簡単に戦争なんて起きないもんだよ。」

「空が青くて綺麗で、俺はこいつに皆を乗せて自由に飛んで見せてやりたくなるよ。」

彼は健康な、明るい張りのある声で、表情で応えてくれた。
だから、それ以上何も言えなかった・・・私と彼の空は違う・・・

戦争の道具に乗りながら、トップガンという人殺しの技術に長けていながらこの表情・・・・

スクリーングラスも掛けていなかった、私の顔を見ても、自己紹介の名前にも全く何の反応もなく・・・

そのまま本当の事も告げずその基地を去りました。

彼のそのまだ手を汚していない無邪気さが、綺麗な青い瞳が、それ以上彼の前に立つ勇気を喪失させたようです。
たとえ本当の事を言ったとしても、戯言としか受け取ってはくれなかったでしょう・・・


この不穏な情勢下、今後どれほど地球を訪れる事が出来るか判りません。
またの機会があることを祈って、今回は帰ることに致します。

少しでも彼の様子に変化がありますように。
そして、執事さんとも出会えない、この政治情勢が、少しでも改善される事を祈って。

――ラウ。』








初めてだろう、ムウから執事を呼びつけた。一人で来いと。


「俺は、貴方が言ってくれたことを思い出せませんでした。」

「今は知っています。知識として。」

「現実味のない、教科書の中の、年表の中の歴史のように・・・・それでいいですか?」

「情けない人間です。でもそんな人間ですが、もう2度とこの血を裏切らずに今までを償い、これからを生きます。フラガ家の息子として。この力存分に使って。軍に協力ではなく、彼らに協力させます。」

「クローンを作る必要のない世界を目指します。
彼のような哀れな存在と、父のような身勝手な存在が生まれないように。
人の命を容易くもてあそばれない為に。」

「そう、もっと効率の良い軍備を増強させればいい・・・・」

「ムウ様、それは反します。フラガ家は・・・武器商人ではありません。」

「判ってるよ。でもね、覚悟はしておいてくれよ。いつまでもこのままじゃいられない・・・・」

「判りました。あのアル様の息子だ、フラガの血が何処まで目覚めるか、覚悟しましょう?」

二人が珍しくにやりと口角を僅かに上げた。

「ちょっとお待ちを。祝杯と行きますか?」
「いいな、それは。」

しばらくしてグラスとバーボンを持って来た。
「そのままは辛いね〜」
「判りました。水割りと行きますか。
このバーボンの製造会社が我がグループに入りました。

このブレイク・ザ・ワールドの落ちてきた破片によって、この会社の工場が大破しました。
資金の提供も受けられなくて、我がグループに泣き付いて来まして、傘下に入ったところですよ。」

「他にも犠牲は多いのか?」
「ええ。敵も味方も。」

「だから一刻も早く我が財閥も、貴方を旗頭に、この世界の秩序を立て直さないと、困ることになります。」

「それと、私が渡す物ではありませんから、どうぞ。結婚届ですよ。いつか貴方が思った時に渡して下さい。」
「有難う。彼女は君の元で合格かな?」
「ええ、貴方の母親よりは、ずっと、適していると思いますよ。
子供の為に素朴で小さな暖かなマイホームを作る方ではなさそうですよ。
貴方の心強いパートナーになってくれますよ。今度宝飾店とドレス選びにお供する約束をしましたから。」
「へ〜、あの軍服と、硝煙と機械油の匂いの女が?」
「貴方より、仕込み甲斐がありますよ。ファーストレディとして、オーブの方々とも渡り合えるようにね・・・」

「ふふん・・・では、乾杯するか?あてに出来るのか、頭が痛いこの放蕩息子は?ってネ?」
「あてにしますから。ただし、もしも、の時は覚悟して置いて下さいね。」
「ああ、今度こそ、跡継ぎが出来て、また俺が無様な事をしでかしたら、皆に殺されるかも・・・・」

「当たり前です。」
「――では、ムウ様に乾杯。」
「――フラガ家に関わった者達に乾杯。」





「今日も雪よ・・・オーブには降らないけれど・・・雪が降ってるわ。」

「・・ムウ、新しい世界で私たち生きて行きましょう?」

「どんなに困難で、判らない事ばかりでも、私たちは生きて行けるのよ。
死んでいった人々の分まで償いの為にも生きましょう?」

「大丈夫、私が付いているわ、途中で何が起きても、支えるわ。」

「そして家族を作りましょう?作れなかった人々の為に。もう二度とそんな悲しい人々を作り出さないために。
まだ私も子供が産めるわ、沢山生んで、おおらかに生きて行ける為の世界を提唱したい!」

「フラガ家の財力と政治力で作り上げて行かないこと?私、もう、軍には戻らない、銃は取らない。」

「ムウ、貴方も覚悟を決めて、いつまでも逃げていないで・・・・笑われるわよ。父親達に・・・・」

「聞いたわ。私たちが撃ったもの達の中に貴方の大切な人々がいた事を・・・・・
だから、私と貴方が出来る事をするのよ。今なら出来るわ。オーブに戻ったら出来ないわ・・・・」

「ムウ、もう、思い出さなくていい。ただ、事実として受け止めて、新しく歩き出しましょう。
でないと、この世界もっと今までより混乱するわ、だから、皆に協力して、お願い。」


「マリュー・ラミアス。」
「その名が嫌なら変えるわ。名前なんて記号よ。」

「貴方のフラガの血の力が必要ならば正々堂々隠さず使えばいい。
公にすれば軍部だって考え直すでしょう?陰で囁かれるから何か軍の戦力になると思うのでしょう?」

「ただでさえ政財界では大昔から知られた話なのでしょう?
公の機関で調べてもらって、いいえ、これからの世界、フラガ家の事業の一つにしたらいいじゃない。
なら、攫われる事も、実験体にされる事も無い。自分で自分を調べるのよ!」


ムウは、にっと笑って立ち上がり、机の上の紙切れを渡した。

「君はずっと俺より男前だな。カッコイイよ。」

「今日はもう帰って、ああ、サインしたから。君は晴れて俺の妻だ。明日にでも届出を頼む。」

紙をたたみハンドバッグにしまいこむと女もにっこりと微笑んだ。

「有難う、判ったわ。ムウ?私は年中常夏より、四季があり、寒い厳しい季節が好きよ。
雪が降るところが好き・・・・外は雪よ。」

「プラントにも雪が降るのでしょう?粋な政治家でもいたのね。尊敬するわ。じゃあね。」



オーブに雪は降らない・・・常夏、常春の島
降らないはずのプラントに降る雪・・・・
窓の外の雪・・・知っている、もうすぐこの雪も消える事を。春になる・・・


雪・・・か、
どちらを選ぶ?
――俺は・・・





もう失ってしまった者は戻らない・・・帰らぬ者たちは忘れない・・・夢でしか思い出せない者。
君だったよ、ラウ・・・戦場にいつも気配を感じていたもの。

お前が、夢の通りなら俺をなんと不甲斐無い奴だと思っただろう・・・・
あれほど愛しいと言っていた筈なのに忘れてしまって・・・

たびたびで会っていたようだが、記憶にないこの情けなさはどうだ・・・・・
どれほど殺したいと思っただろう・・・・

メンデルの研究所で、キラの存在が無かったら。

もしかしたら俺達はあそこで二人一緒に相撃ちで死ねたかも知れなかったな。
お前はそれを望んでいたのだろう?

すまなかった・・・AAでお前を救いたいと、行動を止めたいと言っていたそうだ・・・
俺も死んでいた筈だった、お前と出会えるはずだったのに、俺だけ救い出されて・・・

しかも連合に意識調整されてまた戦いに駆り出されていた・・・・

自分で家を飛び出し、軍に入り、そこでも家の血に振り回されていただけだったのか?
自分の甘さと、フラガの血に吐き気がする・・・

それでも、ドンパチ最前線で殺し合いするより、
フラガ家の男として、この世界相手に生きて行く方がずっと重責を感じる。

嫌悪すべきアルは、父親はどんな思いで俺達を作ったのだろう・・・



ラウ!
レイ!
ステラ!
アウル!
スティング!
そして、月でジブリールの脱走艦となったばかりにガーティールーと共に撃たれたリー、
君にはいい手柄をやれなかったな。
ジブリール、貴様は俺を助けなかったら、いらぬ野望も、持たなかったかも知れぬな。

皆、どこかで俺を怨んでいるか?憎んでるだろうな。
死んだつもりだったのに・・・俺だけ生き残ってしまった・・・・・・・


俺だけ幸せになるのは辛いけれど、君達の分も生きるから。

この残された世界が激流の世界だと判っているから・・・
たとえ伴侶と共に生きようと、人は一人で生まれ、死ぬのも一人だ・・・

誰も俺の代わりはいない・・・・
俺は・・・今まで背を向け逃げて来た世界でもう一度生きる・・・・

銃の代わりに政治、経済で、文化で、思想で、そして、金で、立ち向かって行くさ。

もしそれでもやはり駄目だったら・・・武器を取ろうか?

俺も、ラウのようにフラガ家を潰して、この世界も潰してしまおうか?

みっともなくても、金の亡者と言われようと。
訳の判らない超能力者と言われ、不公平と叩かれようが・・・・稼いでやるよ。

金でこの世界、苦しむ者、死ぬ者がなくなるのなら・・・
テロや戦争するより、命で払うより、容易いことだろう?

こんな事に気付くのが遅れた俺の為に、いや、眼を閉じ、善人ぶっていた俺の為に。

戻らぬ者となった者達・・・・

お前達のような思いをする人をもう作らないから・・・・

その為に世界とフラガ家の血に挑むから・・・・


ラウ、レイ・・・君達にもう一度会いたい・・
そして共に生きて行きたい・・・と。

そう思わないでもないがな・・・

代わりに子供を作るよ、ならば彼等の為に頑張れるから・・・・
フラガの血を研究するよ・・・

世界の為になる何かが見つかればいい・・・・
軍などがでしゃばって来たら代わりに資金をストップさせる。
俺自身を餌にして。

今度は私が手玉に取ってやる・・・



見ていてくれ・・?そこで、哂って見ていてくれ、無様な生き様だなと。

俺の戦いを・・・・、私の代わりに戦えと言ってくれ!

――ラウ!!






――了













作中、見国の『空と暗転』という某所で描かせていただいた
フラクルマンガを設定として
使っていただいてます〜vまずは御礼をv
ずっとフラガ…そしてネオとしての彼に、隊長を含めた、
フラガとネオによって救われなかった
全てのキャラ達に何か言葉が欲しかったので、
後悔してのたうってくれたのが、とにかく有り難かったです。
マリューと一緒に未来に希望を持ちつつ、
これからも失われた彼等のことを忘れないでいてほしいです。



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