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C,E,64,新年

新年を迎えて・・・・普通の業務に戻った頃・・・あの雪の騒動も沈静化し、人々も落ち着き今度の雪の日を待ちわびるまでになっていた・・・・

「今日、最高評議会から戻って来て黄道同盟の方に顔を出した。そして、書類が上がって来ていた。」


「そこには・・・いつ申請したのか、お前の許可願いが出ていた。私はこのようなことに着かせる為にパトロンになったのではないと思っているのだがな?・・・・まだ、医師として専門職として従事するのなら許可するが・・・・なぜ、機動・遊撃部隊の待機要員なのだ。何か事あれば最前線に出ることもあるのだぞ。前にも言ったな、その手に銃は似合わないと・・・・せめて訓練だけでもとお前が言うから・・・・紹介しただけだ。」
「クルーゼ様・・・」
食後のコーヒーにブランデーを注いでいた執事の声が零れた・・・・いつも不用意な事を一切言わない男が・・・・驚きのあまりに・・・・

「成績が良かったのですよ。他の者達より意外に、教官たちも驚いていましたよ。運動能力も、兵器の扱いにもね。出来るのならお役に立ちたいではありませんか?日常でも、貴方の為に・・・・」
サ−ビスされたコーヒーカップを少し掲げ、そう応えた。
「では、同じように、このたびの雪の件、お前が私の為に治めてくれたというのか?」
「なんのことでしょうか?」
内ポケットから封筒に入った手紙を差し出した。今回は、シーゲルに渡した時には見せていなかった封筒に入っていた。封筒には古風にも封蝋がしてあった。通常のサインで封をした物ではなく、蜜蝋を溶かし封をし、上から更に紋章の印が押してあった・・・・
「その封筒も、蜜蝋も、紋章印も見覚えがあるのだがね。確か、お前に貸してやってそのままになっている物だ。」
「ご推察通りです。」
じっとコーヒーを飲む姿を見つめるパトリック・・・
その視線に臆する事無く見つめ返すクルーゼ・・・

「これも私の為か?」
「――私からの雪のお礼ですよ・・・・・」
「では、これの中に書かれてあることは全部創作で嘘かな?」
「――いいえ。」
「あの雪の中で・・・・この女性のように抱き締められたら・・・・本心からやさしく言われたかった・・・、夢です。」
「・・・・誰を思ってだ?」
「――私に許されているのは、貴方お一人だけのはず・・・・」
「クルーゼ・・・・いつからこんな勝手が許されると思っているのだ?」
がたっと席を立ち、クルーゼの元に歩み寄った。

「――申し訳ありません・・・・・貴方の為に何かしたくて、思い悩んだ結果です・・・」
と応え頭を下げた・・・・
その姿を立ったまま冷ややかに見つめた・・・・
そして腕を伸ばし、クルーゼの肩を強く掴んだ。はっと顔を上げたクルーゼはすぐ目を伏せ、素直に席を立ち、腕を取られたまま、あがらう事無く付いて行った・・・・



朝にはまだ時間がある暁闇の中、年末に積雪によって痛めつけられた花びらは執事が綺麗に取り去り、そのような事はなかったかのように咲き誇る薔薇達の上を・・・・
細い声が響く・・・感極まったように・・・啜り泣くように・・・・
そしてここの主の声も重なった。



「お前の為に私は・・・お前がいると頑張れる・・・・・私の生き様を見ているがいい。」
思いっ切り舌の根を抜かれるような接吻を何度も受ける・・・あがらう心を捻じ伏せるように・・・身も心も全てを食らうように・・・
その証のように身体中に赤い花を刻み付けて・・・自分の所有の印とする・・・
許しを請う声がする・・・
その声を、吐息をも、貪り食らう・・・


『――そうだ・・・貴様にこんなつまらぬ事で失脚されては困るからな・・・・』

背後で息を詰め達した男の熱い精液を叩き込まれながら、瞳だけは冷たく、唇は薄く嘲笑を浮かべた・・・・




そして、プラントに被害を出した降雪については、気象局の若手のシステムエンジニア達が、少しでも、地球のような四季を作り出し、生活が楽しめるようにしようと、作り出したプログラミングのミスという事で、評議会の方では収まった。
更に冬の恒例行事として、改めて評議会がディセンベル市の知名度を上げる為に、観光客をも招く為に、降雪日を12月24〜25日頃に設定する事が決定された。
雪景色を堪能出来る、大人だけではなく、市民が皆それぞれに雪を楽しむ場所をも整えた。
一方では自動的に交通が麻痺するのでクリスマスから新年休暇に入る企業も増えて行った。
他のプラントでもディセンベル市の真似をするところが増えていった。気象局のシステムが更新され、エネルギー消費の余裕があるプラントから、随時雪を降らせて行った。

当初はたった一日の出来事の為に、雪を見られなかった者達、事情でそのプラントにいなかった者達から残念だと言われたが、それはまた、めったにお目に掛かれないことから、伝説的に「プラントに降らせた雪」ではなく、「プラントに降る雪」と囁かれるようになった・・・・


「プラントに降る雪」


それは地球のように天の采配によって自然に降る物ではなく・・・・人為的に人の欲望から生まれた物・・・・
たとえそれが純粋に人々の為と言っても・・・・すぐにそれは人の欲の象徴となる・・・・


ラウ・ル・クルーゼは哂う・・・

知っている筈の無いパトリックにしては洒落た事だな・・・と。

「紛い物の雪」とは・・・まるで・・・知っているようだな・・・私の正体を・・・

人の欲から作り出された紛いモノ、まるでこの雪のようじゃないか・・・




だが、雪ほど、美しくもなく、夢心地にさせるモノではないな・・・
いつか作り出した事を後悔させてやるモノだ、待っているがいい・・・



――プラントに降る雪・・・
――それは紛い物の雪・・・











「終焉に捧げるシリーズ」における人物解説

(私的解釈が必要なところが問題なのですが・・・)

○「シーゲル・クライン」
元プラント最高評議会議長。ラクス・クラインの父親。
パトリック・ザラとは黄道同盟の設立仲間。
パトリックに「一生のお願い」と言える仲。
断わられながらも最後は聞き届けて貰える仲。
パトリックを裏切り、逃亡、消される。
どに様のサイト「どにの部屋」に提供済みの一連の作品
「アプリリウス・ワンでの婚約騒動・続」「アプリリウス市の議員会館において」
を参考にして下さい。

オリジナル人物について
○「執事」
パトリック・ザラの屋敷の筆頭執事。
地球でのザラ家に仕える家令の家柄。
パトリックをコーディネーターにした時点でザラ家は、仕える者もコーディネーターとした。
2歳年下。未婚。パトリック至上主義。
クルーゼをパトリックの恋人としてみている。初めてパトリックが屋敷に連れて来て以来、主人と同列に扱っている。パトリックより、親のように親身に衣食住の世話をして来た。
クルーゼは自分の事のみに夢中であまり感謝の言葉も無い。気持ちはあるらしい。


○「セレス・ウェーバー」
シーゲル・クライン、パトリック・ザラと共に黄道同盟の設立当初からの仲間。
年齢も近く、祖先は地球のかつての欧州辺りの貴族の流れを汲む。
プラントの為にという信念はそのままだが、クライン、ザラとは違う道を選ぶ。
「公安」と一般的に言われる組織を作り、秘密裏に情報収集に努め、プラントに害するものを徹底的に排除する事を目的とした。
プラントの市民が一枚岩ではない事を常から発言し、非合法的に個人のプライバシーも調査する方法に、一部の黄道同盟員からは非難を浴び、除籍扱いになる。
後に存在が明らかになったクライン派の脅威をザラに知らせたのもウェーバーだった。が、ザラを失い、クライン派の強大化に歯止めをかけようとする。
クライン派と目されていた、新議長デュランダルがひそかに連絡をして来てから彼の政策を援助することになった。
が、2度の大戦の結果、ザラについでデュランダル議長を失い、クラインの娘が評議会に招かれ新議長となった時点でひそかに打倒クライン派、ザラ派を束ね、以前の黄道同盟のように現政権国家の闇に潜った。

合法的な活動としては、都市警察に権限を委ね、最高評議会の中にも監査委員会を設立させた。
パトリック・ザラは黄道同盟員の中で彼を理解を示し、互いの情報の交換も行っていた。
後の黄道同盟からザフトへの再編成の時にも、この闇の存在は大きな力を振るった。

その一端で、パトリックはクルーゼをウェーバー夫妻の招待状を受けた時に、公安の存在を教える
いい機会と、連れて行き、出会わせた。今後の、クルーゼの活動の為に。
パトリックの誤算は、ウェーバーの妻がクルーゼに岡惚れした事だった。
ウェーバーはそれを見て見ぬ振りをし、妻がクルーゼを本格的に、攻略。男女の不倫の関係に陥ると、横からクルーゼを奪い取った。
その後、クルーゼの策に落ちたウェーバーは、クルーゼの気を引こうとあの手この手を使い、パトリックもウェーバーからの情報を得るために、クルーゼを自由にさせている有様であるのが現状である。









静かに降り積もる雪のように、静かに苦しみに堪えながら、
着々と最後に向かって積み重ねてゆくクルーゼが愛しくも切なかったです〜//
ザラは一生懸命愛してるのに(照)こちらも片思いですが
利用し、利用されている間柄と言え、ザラが本気を見せた雪に思いを馳せたいですv
素敵なシリーズ小説ありがとうございます//



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