小説 武男 様
アデス×クルーゼ
彼氏×彼氏「告白」―――
そして、月が天空高くにかかった時、待ちに待った「その時」がやって来た。
二人は本部の中庭にいて、周りには当然出歯亀どもが囲んでいた。それは二人も望むところだ。そのためにこんなことをしているのだから。
「―――隊長。」
さらっと言って、さらっと返事を受けて、それでお終い。
どうせ振りなのだからと何度も言い聞かせてきたが、それでも「告白」というのはやはり、特別な意味があるものだ。
胸は高鳴り、喉の奥がひりひりするほど乾いている。既に最初の一言を言ってから何秒間かが経過していた。
アデスは泣き出しそうになっていた。せめて目の前にいる白い服の男性が、自分と同じように動揺していると知れたら、まだ楽になれるのに。残念ながら、白い仮面に覆われた彼の心は、いつも通りに分からなかった。
「いや、ラウ。ずっと…好きでした。」
我ながら陳腐な文句だ。そして、答えが分かっているというのに、何で胸の高鳴りが収まらないんだ。小さな口が動くのすら、生唾を飲む程に見入ってしまっている。
「…私もだよ。アデス。」
途端に、落胆の空気が周囲を包み込んだ。同時にアデスは、ほっと全身の力を抜いた。
と、その体が引っ張られ、唇に何やら温かくて柔らかい感触が広がる。目の前には、金糸が踊っていた。
アデスの顔が真っ赤になった。
体を引っ張ったのはラウで、唇を覆ったのはラウの唇だった。アデスは血相を変えて自分に張り付いた体をはぎ取る。
「なっ…!?」
「ふふ。」
ラウは面白そうにほほ笑んでいた。自らの唇に指を触れる。
「あの時にしただろう?だから、これはその意趣返しだ。」
「あの時?」
あの時とはおそらく、発作で倒れた時の話だろう。だからって、今そんなことをするか?
「だからってこんな…!」
「そうだな。だからこれは事故だ。きっと、熱で浮かされたんだろう。」
月光を背に、ラウが笑う。そこで初めて、ラウの頬にも朱が差していることに気付いた。
…なんだ。この人もちゃんと、動揺してたのか。
アデスは妙に安心して、ほほ笑んだ。着ているコートの合わせ目を広げ、ラウをその中に包み込んだ。ラウが昼間の時のように、こちらを見上げた。
「寒いでしょう。帰りましょう。」
ラウはほほ笑んだ。
「…ああ。」
黒い影に包まれて、白い光は歩き出した。それはいつも通りの光景。たった数か月前に始まった、だが永遠に続く、“いつも”だった。