アデス×クルーゼ小説

小説 武男様

「子ども艦長」


Q.「私は一体何なんですか?」
A.「ヴェサリウスのマスコットです。」


イラスト武男様



「なんじゃこりゃあ―――!!」

 宇宙空間を航行中のヴェサリウスから、こんな声が響き渡った。

 クルーにとってはいつものことだ。だから誰も驚かない。ただ、少し違和感を覚えたとすれば、いつもなら低い声が裏返るような声なのに、妙に甲高い声だった、ということだろうか。


数分前―――

 忘れ物をしたと言って、ラウが自室に戻ったのはつい先ほどだ。

頭が痛い…。

 ラウから、悪だくみ、もとい、次の作戦についての説明を受けたアデスは、頭を抱えていた。
 この厚顔不遜な上司は、どう考えても軍上層部が喜ぶはずのない突拍子の無い行動をよくする。それは現場で共に働く自分からすれば、命を守ってくれるむしろ当然の考えなのだが、現場とデスクは昔から相容れないものなのだ。

 それに板挟みになる自分は、中間管理職のまさに悲哀だろうか。

 アデスは引き出しをまさぐって頭痛薬を取り出すと、ぽーいと口に放り入れた。すぐに飲み込み、しまおうとする。
 と、何故か今飲んだはずの、そして手の中にあるはずの頭痛薬のケースがそこには鎮座していた。

あれ?

 嫌な予感を心の奥底にしまいながら、手の中の物を見つめる。それは、透明なピルケースで、中には青と白のカプセルがぎっしりと詰まっていた。

「…やっちまった。」

 アデスは思わずつぶやいた。

「今回はやけに薬を多く持たされてな。せっかくだから、お前も持っていてくれ。」
 そう病弱な上司に言われ、(どうせ面倒見るのは自分だから)丁度いいと思い、いつも薬を入れておく場所に一緒にしまっておいたのだっけ。

完璧に忘れていた…。

 そして想像に難くなく、恐らくこれは「劇薬」だ。服用して幾らも経たないうちにあれほどの発作が治まることから考えても、ある種麻薬の成分も含まれているのかもしれない。
 とにもかくにも、健康体で薬をほとんど服用したことも無い自分が飲んで、体にいいはずがなかった。

とりあえず…。

 アデスはケースを元の場所にしまい、引き出しも閉めて、心を鎮めてその時を待った。明確な合図は無かったが、ふいに気が遠くなり、ぐらりと机に突っ伏したようだった。


「う…。」

 アデスは背中に広がる固い感触に違和感を覚えながら目を覚ました。目に映る光景から判断するに、自分は机の下に倒れ込んでしまったようだった。特に体に痛いところや違和感はない。
 腕時計を見ると、倒れてから1分もたっていなかった。

…良かった…。

 ほっとしたのもつかの間。そこでアデスは重大な事実に気づく。

私の腕は、こんなに色白だったか?

 アデスはどちらかと言えば色黒だった。嫌な予感にとらわれながら、むくりと起き上がる。ところが、頭が机にぶつからなかった。

あれ?何かおかしいぞ?

 アデスは傍らの椅子を見上げた。何だかやけに大きく感じるが、きっと座っているからだろう。
 立ちあがった。

 座面が脇腹の辺りにある。いつもなら尻のはるか下だ。

 歩いてロッカーへと向かった。がちゃりと開けると、中には小さな鏡が置かれていた。

 その鏡を見て、アデスはようやく現状を受け容れた。

「なんじゃこりゃあ―――!!」

 そして、冒頭に戻るのである。

 ロッカーの半分にも満たない身長。色白の肌。小さな手。大きな瞳。
 それは自分の子供の頃の姿に相違なかった。

一体何が起きているのだ!?

 アデスは訳が分からなかった。いや、アデスでなくても訳が分からなかっただろうが。原因だけは明らかだった。

まさか、さっきの薬か!?いや、それ以外に考えられない!まさかこのような効用があるとは…。
はっ!さっき隊長もこれを服用していたぞ!ということは、隊長もこの憂き目に…!?

「どうしたんだ、アデス!」

 だが心配は見事に外れた。血相を変えて入って来たのは、いつも通りの大人のラウだった。アデスはほっとするが、同時にこの現状をどう説明したらいいのか途方に暮れた。ラウの方も、呆然とこちらを見つめている。

「えと…。
 …アデスの隠し子?」

「どうしてそうなるんですか!」


 アデスは何とか状況を説明した。と言っても、伝えるべき内容はごくシンプルで、要するに「あの薬を飲んだらこうなったんです!」ということだった。
 ラウはあごに手をやり考え込む。ここで冷静になれるのが、さすがラウ・ル・クルーゼということだろう。

「…まぁ、十中八九この薬のせいだろうな。」

 まあそうでしょうね。

「なるほど。やけに道中服用するよう言ってくるわけだ。つまり…」

『この薬を飲めば、子供時代のラウと会える…!あ、ヤバイ、鼻血が…。グフッ!』

「ということだろう。全く迷惑な話だ。」

 ラウは溜め息混じりにそう言った。確か、薬を提供しているのは『知り合い』だと聞いた。…以前から思っていたが、この人の周りにまともな人間はいないのか…?

「それで、隊長は?」

「私は特に問題はない。まぁ、普段から服用しているものがものだからな。この程度の副作用、どうってことはないのだろう。」

「…そんなもんですか?」

 この程度ですまないからこんなことになっている…と思ったが、口に出そうとは思わなかった。

「…服はどうしてなんでしょうね?」

「さぁ。神様的な配慮ではないか?」

「……。」

 とりあえず話すことは終わり、二人は黙った。コホンとラウが咳払いをする。

「まぁ、なってしまったものは仕方がない。前向きに考えよう。」

「はぁ…。まぁ、役割をおろそかにしようとは思いませんよ。」

 アデスは渋い顔で頭を掻いた。ふいにその体をラウがぎゅっと抱きしめた。

「…どうなさいました?」

「いや…。何となく。」


「…と、いうわけで、アデス艦長は今子供の姿になっている。」

「はぁ。」

 ラウは手の空いたクルーをブリッジに集め、アデスの災難を説明した。しかし皆一様に、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしている。
 …まぁ無理もない。あまりに突拍子すぎる話だからな。ドッキリにしたって間が抜けている。

『隊長が事情をあらかじめ説明しておいてください。その方が彼らも納得がいくでしょう。』

 とは言っていたが…。実際、どうするんだかこの空気。イザークが控えめに手を上げた。

「隊長…。我らはクルーゼ隊の一員として、隊長のお言葉は脳の中に全て叩きこむつもりです。ですが…今のお話はあまりに…。」

「その意気の通りに行動すれば良かろう。立派な考えだと思うぞ。」

 ふいに、甲高い子供の声が響いた。ちょこんと、子供の姿をしたアデスが、ラウの隣に現れる。みんなは呆気にとられる。

「えっと…。アデス艦長の隠し子ですか?」

「どいつもこいつも…何でそうなる!」

 意外にも先陣を切ったのは大人しいニコルだった。そしてその怒り方を見て、ようやく全員が、目の前にいる子供がアデスであることを理解した。

「えー、マッジでー!?これがああなるのー!?」

 不用意に思わず心証を吐露してしまったのはディアッカだった。アデスはじろりとディアッカを睨む。

「何かな、ディアッカ?どれが、どうなるのかな?」

「あ、い、いえ。」

 なかなかの勇者で、ラウは健闘をたたえようかな、とも思ったが、やめておいた。アデスもつーんとそっぽを向いていたが、まぁ無理もないと思っていた。むしろ、よく言ったなぁ、と労ってあげたいぐらいだ。それをしなかったのは、浮ついてしまった空気を律するためだった。

「策敵はどうなっている?」

「は。まだレーダーには何も。」

「航路は?」

「はっ。今のところ滞りなく。」

「では、通常業務に戻れ!ここは戦場の一部であるということを忘れるな!」

「はっ!」

 相変わらず子供の声だった。だが、全員はその影に、いつものアデスを見とめていた。

 アデスはいつものように艦長席に座った。座る部分までは高かったが、無重力のためにそれほど苦労はしなかった。ラウもいつもの通り、背もたれに手を置いてこちらを見る。

「見事な演説じゃないか。」

「お恥ずかしい限りで…。」

「いやいや、大したものだ。正直どう収めるのかと思っていたからな。」

「そりゃああなたの部下ですから。このくらいは出来ませんと。」

 しれっと言う頼れる部下を見て、ラウはほほ笑んだ。その時、

「敵影、補足!」

 レーダーが敵艦隊を捉え、途端に緊張がブリッジにみなぎった。

「距離は!」

「およそ5000!数は3!」

「シリウス最大出力!2500まで近づいたら、モビルスーツ隊を出撃させる!よろしいですね?」

「ああ、構わん。これはお前の艇だ。お前に従う。」

 ふわっと、ラウが扉へ向かった。アデスは慌てる。

「どちらへ!?」

「デッキで待機するだけさ。その時になったらよろしく。」

 軽く手を上げて、扉の外へ消えていった。

 自分のためだろうな…。と、アデスは悟っていた。自分がこんな姿だから、知らず知らず気にかけてしまっているのだろう。
 アデスは舌打ちを打ったが、仕方がない。

「距離、2500!」

「モビルスーツ隊出撃!ハッチ開け!」

 ラウのシグーを先頭に、モビルスーツ隊が出撃していく。アデスは祈るような思いで拳を握った。それはいつもやる動作だった。

「主砲の到達領域に入ります!」

「カウントダウン開始!主砲発射準備!」

「カウントダウン開始。5,4,3,2,1」

「主砲、ってぇー!」

 光が宇宙を走って行く。見事着弾し、敵艦の一つが爆発した。

「命中!1艦大破!」

「バラけているな…。艦砲射撃用意!チャージ急げ!」

「敵モビルスーツ隊来ます!」

「ミゲル!戻れ!」

「了解。」

「敵主砲来ます!」

「面舵!かわせ!」

 間一髪間に合い、主砲はヴェサリウスをかすめていった。だが、艦は大きく揺れ、子供の力では支えきれず、アデスは危うく飛ばされそうになった。

「わっ!」

「艦長!」

 側にいた一人が慌てて席を立とうとしたが、椅子にしがみついたアデスが鋭く制した。

「馬鹿者!持ち場を離れるな!次弾、来るぞ!」

 その発言通り、今度はミサイル弾がヴェサリウスを襲った。ただでさえ不安定な体勢だったので、アデスは今度こそ椅子を放してしまい、扉に体を打ちつけた。

「てっ…!」

「艦長!」

 ブリッジクルーは席を立つわけにもいかず、指示を待っている。アデスは自分に腹を立てながら目を開くと、鋭く叫んだ。

「主砲、撃てー!」


 結果は、戦艦3隻を撃沈し、モビルスーツ隊も沈黙させるというそれなりの戦果だったが、ヴェサリウスもそれなりの損害を受けていた。
 タブレット端末で現状を確認したアデスは苦い顔で言う。

「途中のコロニーに寄りましょう。この損害で本国までは、少し辛いものがあります。」

 アデスは溜め息と共に端末をラウに渡した。アデスはもう一度溜め息をつく。

「…もう一度薬を飲んでみるか…。」

 ラウは驚いてアデスを見た。だが、アデスは真剣だった。

「アデス。」

「このままでは任務を遂行できません。この体では軍人として必要な諸力がありませんし、何より空気を乱します。
 私を気遣うあまり、皆の反応速度が著しく低下しています。それを叱るわけにもいかないのです。何故なら、皆は「子供」を気遣っているのですから。軍人としてむしろ、褒められる性質です。」

「だからってそんな博打…。」

「私は私のせいで、“クルーゼ隊”という栄光を汚したくないのです。そのためなら何だって…」

「別にそれは艦長のせいじゃありませんよ。」

 いつの間にか、ミゲル達がいた。彼らは敬礼する。

「報告に参りました。アデス艦長はやはり最高の艦長です。
 俺達のことなんて気にしないで下さい。むしろ、訓練代わりに良いかもしれませんよ?民間人で子供がいた場合の対応策、ってね。」

「…おいおい。」

「気真面目すぎるのは艦長の悪い癖ですよ?ちったあ俺達に花持たして下さい。」

 アデスはまじまじと少年たちを見た。彼らの笑顔に、ようやく頬を緩めた。

「…分かった。そう思うことにしておこう。」

 少年達は顔を見合わせ、「やった!」と笑い合う。それを見て、アデスはほほ笑んだ。
 そんな様子を見て、やっぱり子供じゃないなぁ〜、と、ラウは思うのだった。


 子供の姿でも、それなりに不便は無かった。艦内は基本的に無重力、低重力なので、高いところの物も取れる。そもそも艦長という役職は、管理職の色合いが強いので、肉体的な力はあまり関係がないのだ。
 ただ一つ問題があるとすれば、(特に女性士官と)すれ違うたびに、「カワイイ〜!」という声が漏れ、隊長が自分を放さないので、「隊長と子供アデス艦長!ヤバイ、萌える!」とか、そんな言葉が聞こえて少し気味が悪いくらいだろうか。

 二人は食堂へとやって来た。アデスはむっと顔を曇らす。カウンターが高い…。

「大丈夫だ。私が取ってやるから。」

 ラウはくすっと笑って言った。アデスは顔を赤くしながら、少し頭を下げた。

「私は…A定食にしようかな。」

「私はサバ味噌定食を。」

 アデスの言葉に、ラウは意外そうに見た。

「…渋いな。」

「嗜好は変わっていないんですよ。」

 料理が来るまでの間、二人は雑談をした。

「子供の時は随分と色が白いな。」

「中学の頃まではね。夏に海に行ったら黒くなって、それから色が落ちません。ただ、水着で隠れていたところまで黒くなったので、やはり遺伝なんでしょう。父方の祖父はかなりの色黒ですしね。」

「へ〜。」

「お待たせしました。」

 A定食は豆腐のハンバーグにサラダが付いた、かなりヘルシーな献立だった。ラウは二つのプレートをひょいと持つと、そのまま席へと行った。アデスは慌てる。

「あ、隊長!そのくらい運べますよ!」

「いいから、いいから。子供なんだから、遠慮するな。」

 ラウはにやりと笑って、どこかで聞いた文言を言った。最初に会った時の意趣返しか。
 アデスは諦めて従うことにした。

 適当なところに席をとり、向かい側にサバ味噌定食を置いてラウは座った。アデスも座る。

「「いただきます。」」

 二人は箸を親指に挟んで顔の前に持ってくると、揃って言った。これはアデスの癖で、ラウはそれを真似しているうちに身に付いた。
 何でも、オーブに統合する前のどこかの島国で、食前に必ず言われていた文句で、アデスは謂れを旅先で出会った人々から聞いて、それ以来欠かさず言うようにしている。

『これは感謝の言葉なんですよ。
 この料理を作ってくれた人に。食材を加工してくれた人に。食材を育ててくれた人に。食材になってくれた命に。命を育んでくれた自然に。我々を生み出してくれた世界に。
 そうした諸々の感謝をこめて、この料理を「いただきます」。そういう意味なんです。』

 本当に嬉しそうな笑顔で、この由来を教えてくれたんだっけ。
 私はとてもそんな感情を込めて、そんなことを想ってこの言葉は言えないけれど、でも…こんな私に、聞いてくれて嬉しいと心から思って教えてくれたお前に、私は感謝を捧げよう。

「何か付いていますか?」

 ほほ笑んでこちらを見ているのを不思議に思い、アデスは思わず尋ねた。ラウは笑顔で否定する。まだ不思議に思いながらも、アデスは箸を進めた。

「そう言えば、アデス。お前、嫌いな色は何色だ?」

「はひっ!?」

 ちょうど飲み込むところだったらしく、アデスは喉を鳴らして咳込んでしまった。

「…大丈夫か?」

「へ…ゲホッ!平気です…。
 突然どうなさったんですか?」

「いや…。色の嗜好って、人柄を表すんじゃないかと思ってな。」

「あぁ…。」

 アデスは納得すると、ふいっと窓の外の宇宙を見つめた。漆黒の闇を見ながら答える。

「…黒、ですかね…。」

「黒?」

 意外だった。黒い軍服をまとい、私服もほとんど黒でそろえているこの男が、まさか黒が嫌いとは。

「黒色って、全てを飲み込んでしまうじゃないですか。全てを消してしまうと言うか…。それが嫌で、何となく嫌いなんです。」

 アデスはラウに瞳を向けると、少し恥ずかしそうに笑った。

 ラウは呆けていた。同じだった。
 自分も黒が嫌いだった。全てを塗りつぶす色…。まるで自分も塗りつぶされてしまうようで、大嫌いだったのだ。

理由まで同じなんて……。

 ラウは目の前にアデスがいなかったら、泣きだしてしまっていただろう。だが、何とかこらえて、それを隠すようにわざと笑みまで浮かべる。

「その割には軍服は黒だし、私服も黒ばっかりじゃないか。」

 アデスは唇を尖らせた。

「配給品だから仕方がないでしょう。それに、黒以外私には似合いませんから。」

「あぁ、なるほどな。
 だったら逆に、好きな色は何なんだ?」

「そうですねぇ…。やはり男の子なので、月並みに青でしょうか。」

「ふ〜ん…。じゃあ今度、青でお前に似合いそうな服でもプレゼントしてやろうか。」

「え。隊長がですか?…嬉しいですがちょっと…。」

「何だ。私には人が似合いそうかどうかも分からないと言うのか?他の人間ならいざ知らず、お前の似合いそうな服なら、百通りぐらい揃えてやれる自信があるぞ。」

 つんとした口調とは裏腹な甘い言葉に、アデスは思わず顔を赤らめた。

「あ、はぁ…。ですが…。
 何もしないでお言葉に甘えるわけにはいかないので、じゃあ隊長のお好きな色は?」

「ん〜、私か?私はまぁ意外に、白かな。」

「まんまじゃないですか。」

 アデスは素で言ってしまった。ラウは余裕たっぷりの笑みを消さない。
 もしアデスに買ってもらったら、一生大切にしよう。

 ラウは短い命と知りながら、そう己に誓った。


 二人は通路を歩いていた。今後の予定などを確認し、艦隊戦術についてまで語っていた。

「ですから、私は主砲に重きを置くよりも、艦砲射撃のバリエーションを充実させるほうが先決だと思うのです。」

 アデスは熱っぽく語っていた。ラウは卓越した頭脳の持ち主だが、部下の意見にも真摯に耳を傾けてくれる。そしてそれを実際の戦闘で柔軟に反映する。
 今もラウは真剣な表情で顎に手を当てて、一緒に考えてくれた。

「確かにそれは私も一理あるな。何度か開発部にかけあってもみたのだが…彼らは見た目の派手さしか追及しないからな。」

「はっ!パフォーマンスですか。まったく、戦艦は航空ショーの飛行機ではないのですよ?」

 アデスはめったに他人を批判することはない。だが、こと戦艦のことになれば別だ。戦艦は航宙戦の要だ。そして、数十人単位の人間の命がある。それを考えずに、見てくれやインパクトだけを追求するなど、アデスには到底理解できない思考だった。
 ラウはなだめるような苦笑を浮かべた。

「アデス。少し声を低めろ。部下に見られたらっ!?」

 ラウは階段を踏み外してしまった。突然のことに、真ん中を歩いていたために、体を支えることが出来ない。ラウの超人的な反射神経と身体能力でも反応することは出来なかった。

 アデスも咄嗟に手を伸ばしたが、子供の腕では届かなかった。

届かない…!?……ふざけるなっ!!

 …時間が経っても、ラウの体が落ちる音は響かなかった。代わりに手すりが奇妙な形でひしゃげている。

 アデスの体は元に戻っていた。腕の中にしっかりとラウを抱きかかえている。手すりがひしゃげているのは、アデスが咄嗟につかんだからだった。

「…大丈夫ですか?」

「ああ…。」

 ラウを立たせる。二人は見つめ合った。ラウの指が、確かめるようにアデスの頬をなぞる。

「…元に…戻ったんだな。」

「そのよう…ですね…。」

 ラウはくすりと笑った。

「やはり子供のお前もいいが…」

 ラウはぽんと蹴りあげて、ゆっくりと落ちてきた軍帽を手の中に入れた。それを元の場所に戻す。

「大人のお前の方が好きだ。」

 アデスも笑顔で軍帽をかぶり直す。

「ええ。私もです。」

 二人は笑い合うと、何事も無かったかのように、話の続きを始めた。


 それ以来、アデスが子供になることは無かった。(薬を飲まなければいいので、当然と言えば当然だが)それに落胆する声は多かったが、それ以上にいつも通りのアデスの姿にホッとする方が多かった。

 実はラウが子供の姿になってしまうのだが…。


それはまた、別のお話―――。



 


武男さんからのコメントです〜♪
「薬ネタがオーケーなら大方のものはオーケーになってしまいますよね。おまけに議長…。
 いや、違うのです。デュランダル議長は私も好きですし、
人格者だとは知っているのですが、どうしてもこんなキャラにしておくと、いろいろと楽なのですよ〜!!
 こんな薬を作れるのなら、テロメアを治す薬くらい簡単に作れそうですよね〜。(遠い目)
 アデス艦長は個人的に癖っ毛のような気がします。
それが嫌で角刈りにしているとかしていないとか。
(単純にそれ以外に合わないからってのも多分にあるでしょうが!)」
可愛いアデス艦長をありがとうございます〜vvv
このパターンは初めてですお!vvv
隊長もまた別パターンでアデスをぎゅっとできて幸せですっ(〃∇〃
)

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