選択その後sideK―――

お前が死んだ。

 ラウは静かにそう思った。目を細める。

これでいい…。これでもう、苦しまずに済む。

 ラウの心は引き裂かれていた。どうしようもなく哀しく、痛い。目の前に真っ黒な闇が降りてきていた。だがその現実に、ラウは心の底からほっとしていた。

 ラウは知らない。無償の愛も、人の温かさも、信じる心も、心の底からの笑顔も。

 ラウは知っている。醜い憎悪も、虚ろな絶望も、裏切りも、侮蔑の表情も。

 ラウの周りには「黒」しかない。

 研究所で味わった、悲鳴や怒号と孤独の「黒」。

 実家で味わった、傷と喪失感と絶望の「黒」。

 社会に出てから味わった、欲望と嫌悪と裏切りの「黒」。

 ラウ自身も真っ黒だった。だからそれを隠すために、「白」を求めた。

「白」と「黒」しかない。

こんな醜い世界、滅ぼして何が悪い?滅びて何故いけない?

 確かに、未だにこの世界には白と黒しかない。

 だが、今まで知らなかった?黒?に出会ってしまった。

 その男は与えてくれた。愛情を、慈しみを、信頼を、真実を、暖かさを、痛みを、涙を、「人」を―――。

 知らなかった。「人」がこんなものを与えてくれるなんて。「世界」は美しいって。

「自分」は、誰かのためにあるって。

 知らなかった。でも…

もう遅過ぎたのだよ。

 …あと一年。もし早く出会っていたなら、ずっと触れ合っていたのなら、きっと違っていただろう。私は、こんな愚かな願いなど壊してしまっていたのかもしれない。

 …実際、そうだったんだよ?

 途中までは忘れてしまっていたんだ。お前と過ごすのが楽しくて、お前という存在が暖か過ぎて、そんなものなどどうでも良くなってしまっていたんだ。

 でも、やっぱりこの世界は残酷だったんだ。

 出会ってしまった。息子で、兄な、あの男に。そして…私の存在を踏み台にして生まれた存在に…!

 忘れたはずだった。もうとっくに消えてしまったんだと思っていた。なのに、再び燃え上がってしまった。この黒い憎しみの炎が…。

 もう自分でも止められない。全てを焼き尽くすまで止められないんだ。

 どうしたら良かったんだ?やはり私は生まれるべきではなかったのか?お前と出会わなければ、まだ苦しまずに済んだのかな?

 …実際、出会いたくなんて無かったよ。だって……

壊さなくちゃいけないんだもん。

「…お前の「黒」は、私には優しすぎた…。」

 ラウは苦しげに吐きだした。

 言葉は虚ろに、黒い宇宙の中へと、吸い込まれていった。




武男様からのあとがきです!


 これが私なりのメンデルでの解釈です。

 見返してみたんですが、やはり少しラウは冷静さを失い過ぎているような気がするんですよね。そしてあの命令も、確かに無茶すぎるような気が…。

 実際にあの二人の関係がこんなにいいものではないとは思うんですが、あそこでラウはアデスを「始末する」ことを決心したのでは?

 そうだとしたら、アデスには分かっていて欲しいんですよね。実際は分かってなかったでしょうけれど。

 ラウが「途中までは忘れてしまっていた」というのも、初期の頃は全然そういった匂いすらさせていないんですよね。地球降下あたりでしょうか?少し行動が不自然になってきたのは。あれも、世界が思った以上に自分の思う通りに転がっているから、仕方なく、って感じがするんですよね。

 実際に強く決心したのは、キラが「最高のコーディネイター」と知れた時なのではないのでしょうか?ラウにとっては、どんなに弁解しても赦すことは出来ない存在でしょうからね。

 憎み続けるというのは、許す以上に苦しいことだと思うんです。二次創作ですけれど、ラウが一瞬でも憎しみを忘れてくれることを願ってやみません。そうじゃないと、「余計な世話だ。」と言われるでしょうが、かわいそう過ぎると思うのです。』


素敵なお話ありがとうございます!
今思い出しても辛くてたまらないのですが
このお話で救われる気がしますっ
やはり隊長もアデスもあの結果を覚悟の上で
分かり合ってた気がするんですよね。


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