「終焉に捧げる星」シリーズ
小説 紫水様

『プラントに降る雪』

「デスティニープラン阻止の後の勝利国オーブにて
〜ムウ・ラ・フラガの場合〜」






C.E.73.10.

新造プラントアーモリーワンへ地球連合軍の特殊部隊が侵入、新型MSを3機奪取という出来事が起こった。

C.E.70に始まった先の大戦も終結、ユニウスセブン跡地にて停戦条約を締結したが、2年後のこの侵攻によって破棄され、新たな戦いの幕開けとなった。新造艦ミネルバは進水式前にこれに対応すべく発進。
そして、ユニウスセブンの地球への落下という未曾有の出来事に、ミネルバクルー達は巻き込まれたまま地球へと降下して行った。

そして、地球でのオーブ国寄港、連合軍軍事下からの市民の開放、連合軍傘下としてのオーブ軍との戦い、ザフト基地での修理補給と、エクステンデッドの存在の発見、ロゴス攻略戦にと、慣れない地球でミネルバは休みなく戦いを強いられ、クルー達への負担も増大して行った。


ザフトとして何と戦うのか、何を目指して戦っているのか。戦いの是非等考える必要もないとばかりに・・・
戦いの先には何が待っているのか・・・


本来ならば、クライン後継者で穏健派の旗頭であったデュランダル議長の元、戦争推進派は肩身が狭く、ザフト軍も軍備縮小の噂さえ流れ、事実予算の縮小案が提出されていた、そんな矢先の出来事であった・・・

矢継ぎ早に連合からの核攻撃に晒され、プラント最高評議会も積極的自衛権の発動を許可し作戦が開始された。

地球連合とプラント双方の軍備強化と戦地拡大の様相を呈していった。
軍備増強の素早さからそれぞれが停戦条約期間中でありながら、密かに研究開発、実戦配備していたことが噂ではなく事実であった事が判明した。
しかし戦争は国力の低下を招き、国民の負担だけが増大していくのである・・・そして不満だけが底辺に残り、為政者は見逃し、最後は付けを払う事になる・・・


ザフトに対して連合軍がアイスランド基地だけでなく、月基地でも敗退した為に、次に軍事力や国力を持つオーブが狙われると判断したクラインの娘が、アスハ代表と共に、戦争反対を国の旗と掲げて来たオーブ軍を使い、議長の排除に動き出した。

前回からの戦艦アークエンジェル。そして穏健派のクラインを父に持つ、ラクスが率いる、ザフトから強奪された、脱走艦エターナルをもオーブ軍に編入、更に今回の参戦の為の旗艦とした。「打倒議長」の戦いの為に彼らは月を目指した。
ただそれは月に未だ連合軍基地が他に存在していて、降伏もされていない中、三つ巴の混乱に陥る可能性もあった。


プラントのザフト軍にはオーブ軍単独の参戦布告は驚きで受け取られた。
何故参戦してきたのかも不明なまま、ただこの大量虐殺の兵器を排除するという理由だけで、宇宙に上がり、攻めて来たのか?

プラントにとって何十万人の命を奪った兵器であり、停戦講和条約の為の取引材料とするべきものだった。
それを勝手にやって来て、取り上げる、という行動理由が軍部内では理解出来ず、交渉の場を設ける時間もなく戦いに入らされた。

最前線で指揮を取っていた最高評議会議長とも連絡が取れず、前線は混乱のまま、議長が采配を振っていたはずの、機動要塞メサイアは破壊され、「これ以上の戦闘の継続は無意味と考えます、兵を退くように」とラクス・クラインから迫られた。ザフト軍も、最高評議会も混乱のまま議員達は議長をMIAとみなし、ラクス・クラインからの高圧的な言葉に従った。

そして、父親の謀殺からの逃亡生活が終了、ラクスの凱旋が漸く叶った・・・





オーブ軍は未だ、連合軍からの脱退もしていない又連合軍の解体も行われていない以上、オーブ軍内の義勇軍の立場での参戦であったのか、それともアスハ代表の私兵が国軍の名を戴き参戦しただけなのか?

弱体化した、連合軍から離れて、単独でのザフト軍との戦闘も、最高評議会議長の行方不明の中でのオーブ単独の停戦条約も、その後の地球での勢力図の書き換えと共に、国家間の摩擦が起きる原因となった。



オーブ軍は、ラクス率いる戦艦エターナル、アークエンジェルを旗頭に、世界の社会構造自体を変えようとする、プラント最高評議会議長デュランダルの「デスティニープラン」を阻止する為に立ち上がった。その戦闘の最後に、連合の兵器レクイエムと、デュランダル議長の指揮していた機動要塞メサイアを撃破。


最終的にデスティニープランを提示、実行しようとしていたデュランダル議長が、子飼いの部下に殺害される事態となり、決着を付けに行ったキラ・ヤマト准将は自らの手を汚す事無く戦闘は終了した。
オーブ軍はほぼ無傷で、このデスティニープランの実行を推進する者達の自滅によって、計画を阻止することが出来た。

オーブ軍は議長の確保及び軍事法廷への提訴という手続き無しで、勝利が確定し、プラントへ停戦の申し出をした。


そして、それは、プラント最高評議会が、その停戦協定を受け入れた事から、オーブはプラントと地球両方を飲み込み、最高の軍事大国となった事を現していた。
そして、プラント、地球すべてのひとびとから注目を浴びる事になった。






だが、この戦いにより、今まで自らの自衛軍を国内から出さない、攻めないというオーブの鉄則は崩れ去り、最高の軍事力と、それを背景にした政治への発言力の大きさを世界に知らしめることになった。





宇宙と、地球上での様々な内戦、テロなどの混乱を鎮める為に、要請あればオーブ軍派遣、更にはその駐留の長期化、撤退の機会の難しさ、という、今までに経験した事のない事態に陥って来た。
今まで自国が背を向けていた事態の困難さに、実際の人々の平和を、生活を如何にして守るかという事の重大さを、思想、理念を口先で自国民に主張するだけでは、事が解決しない大変さを、漸くオーブ首長国連邦の主席カガリ・ユラ・アスハ達のグループは知ることになる。



カガリの双子のスーパーコーディネーター・キラはこのような事態になるとデュランダル議長に教えられた時、
「覚悟はある」と答えたという。

彼はオーブの戦士として、アスランともども世界警察として社会の秩序と生命を守る為に、戦いに明け暮れるのだろうか・・・?「たとえ戦いで荒れた国土になっても又やり直そう。又花を植える。何度踏みにじられ散らされても」、と荒廃した国の人々に言うのだろうか・・・?

その言葉が今現在戦いを強いられ、貧困と病に蝕まれている地域の人々が耐えうる、納得する言葉だろうか・・

オーブのスーパーコーディネーター、そしてただの人間であると自認する、キラの「覚悟」とは如何なるものなのだろう・・・







議長とそのシンパの死以外、何一つ解決を見せなかった戦乱の後、プラント最高評議会は混乱。
その事態収拾の為に、元議長の娘、今回の戦闘のオーブ軍旗艦の指揮官だったラクス・クラインが議会に乗り込んで来ることになったようだ。
実質、敗戦国プラントに、戦勝国オーブによるプラント最高評議会支配という構図である。

しかし未だにデスティニープランは世界に公開されたまま、そのシステムは誰の目にも触れることの出来る状態に置かれたままだった・・・昔のコーディネーターのプラン同様、いつか誰かの手で、再度どこかで実施される可能性も孕んだままだった・・・


ロゴスという「軍需産業複合体」、いわゆる「死の商人」の大本がなくなったとき、それは一斉に誰にでも出来る商売に替わった・・・・核弾頭から軍用ナイフ一丁まで誰にでも出来る商売になり、才覚のある者が徐々に束ね、再び力を持った者達が生まれるだろう・・・再び第二のロゴス誕生も近いだろう。

世界の混沌は人の際限のない欲望と共に混迷の度合いを深めつつある・・・・
秩序が保たれないままの剣呑な世界情勢の中、その「混迷と混乱の世界」を「自由」と判断し、それを「良し」と認めたオーブ国代表達グループは、世界を、人類を、何処へ導こうというのだろうか・・・・?












C.E.74.12

デスティニープラン阻止の戦闘を終了。
オーブ軍のアークエンジェル、エターナルチームは無事任務完了。
ムウの記憶も無事戻り、目下、各自長期休暇を満喫しているところである。


マリュー・ラミアス艦長は以前からの仮住まいを離れ、皆に祝福され、ムウと一緒に新しい生活を始めた。オーブ軍の家族宿舎でも良かったが、首長カガリの配慮もあって別に一軒屋に住まいした・・・新婚生活同様で、周囲もあまりお邪魔をしないように気遣っていた。



漸く慌ただしい引越しの日々も過ぎ、新年明けには軍に復帰するか、このまま退役するかを決めかねていたマリューは、ムウの変化に気付くのが遅れてしまった・・・この数日、軽い会話が日常的なムウが、窓の外を黙って見つめていたことがあった、と、後になって思い出したのだった。


それは、もうすぐクリスマスという十二月の或る日だった。オーブの国教はオーブ独自の宗教だったが、来る物は拒まず、何処の宗教行事でも楽しいイベントとして受け入れ、お祭り騒ぎとするのが得意な、特異な国家だった。よって、年末のこの一時期はクリスマスと称して街中が浮かれていた・・・・






「マリュー、この近くに祈りの場は無いだろうか?」
「?駅前の公園横の教会がクリスマス前のミサなどをするらしいわよ。遠くだと、市営の墓地の付属の祈り堂があるわ。」
「ちょっと、行って来る・・・」
「ムウ?教会ならこれをもって行ってくれると有り難いわ。明日にでもと思っていたから・・・・」
と布に包まれた大きな缶を手渡された。
「母がいつもしていた事を今年からやってみようかな?って。クリスマスの朝からお祈りに来る方々に貰って頂く為にジンジャークッキーを焼いたの。神父様に渡して来て下さい。皆様にどうぞ貰って下さい。って伝言を頼みます。」
「判った。駅前の公園横だな?」

「でももう夕方よ?」
「少しだけ。」
「じゃ、行ってらっしゃい、ムウ」
「ああ・・・」











そこはすぐに判った。クリスマスのイルミネーションと音楽がここぞとばかりに賑やかな街中で、ひっそりと・・・と、ムウは期待していたが、今日は、いや季節柄か、可愛いお揃いの洋服を着た合唱隊らしい子供たちや、信心深そうな奥様方のバザーなどの慈善活動なのか、結構人が出入りしていて、ムウの行動に眼を向ける者も無かった・・・・

教会の扉は誰かが開けたついでに滑り込んだ。やはり中にも人が飾り付けをしていたりと、思ったより賑やかだった。とりあえず邪魔にならないように最前列の真ん中にそっと坐った・・・ぼんやりと蜀台の炎を見つめた。

初めての場所ではあっても、教会は幼い頃母親が信心深かったお陰で、日曜日となると出掛けたので、久しぶりではあったがなじむのは早かった・・・


ポケットから数枚の紙を取り出しぼんやりと見つめた・・・ここ数日の気鬱の原因だった・・・








記憶は全部取り戻したはずだった・・・


だが、マリューから、先のヤキン・デゥーエ攻防戦の折の遺品のつもりで預かっていた品物だと、引越しの荷物から漸く取り出して来て、手渡してくれた軍用箱の中に入っていた物だった・・

一枚は自分の写真だった・・・誰かがくれたのだろう、自分しか操縦出来なかったメビウスゼロという機体と共に写っていたスナップ写真。

そして、仮面を付けた白いザフトの士官服の男。
これは連合ジャーナルか何かの軍事雑誌の切抜きのようだった
・・・二枚。



一枚はネビュラ勲章授与式にて、と但し書きがムウの筆跡で書かれていた。

もう一枚は高速艦ヴェサリウスと共に写っていたザフトのポスターの記事の切り抜き・・・名前がなかった・・・必要としないほど良く知っている男・・・それは明らかだった。でなければ、戦時中の私物に入れておかないだろう・・・



――何故家族ではなくこの男の切り抜きなのだろう・・・・




柔らかな金の長めの髪。白銀のスクリーングラスにしては大袈裟な、仮面と言っていいほどに顔半分を隠しているこの男・・・・細身で多分身長はある・・・勲章は知っている。ザフトの軍人に与えられる最高位の勲章だ。

ポスターにされるほどザフトでは有名な人物ということだ・・・・



自分は全部思い出したと思っていた・・・・しかしこれに関しては全く記憶が無かった・・・
確かに何故アークエンジェルに助けられたのかも、もう記憶が薄らいで思い出せなくなっていた。
確かにアークエンジェルを庇い、あの時死んだと自分も思っていた・・・AAを庇いで戦死。
しかし、今回は再び連合軍のファントムペイントいう特殊機動部隊を率いるネオ・ロアノーク大佐として復活を遂げ、プラントとの戦いに身を投じていた。と説明を受けていた。
キラが気配を感じ、救い出してくれたそうだ・・・その記憶さえ、薄らいで来ている。


曖昧な記憶は不安定な心を更に気鬱にさせ、居心地のいい部屋が辛くなって来たのだった・・・・


教会からは人が徐々に減り喧騒が引いていったあと最後に自分だけが残った・・・










「夜も更けましたが、宜しいのですか?」
柔らかい男の声が、半分夢か幻か思考の波に飲み込まれていた、ムウを覚醒させた。
「神父様?妻から預かってきた物が・・・クリスマスのミサの時に皆さんに差し上げて欲しいと。」
包みをそのまま手渡した。
「それはありがとうございます。その方のお名前は?」
「マリュー・ラミアスです」
「今夜は何かご相談でも?懺悔ですか?」
「いいえ、ちょっと考え事を・・・」
「そうですか。では夜も更けてまいりましたから、お帰りになる時は、そう、この蜀台の火は消しておいて下さい。危ないですから」
と言い、神父は姿を消した。


ゆらゆらと見つめる蝋燭の本物の火は何か心をざわめかせた。その理由は知っている。
・・・幼い頃、住んでいた屋敷が火事になり両親が死んだからだ。だがその日の記憶がないのだ・・・・学生時代も時折医師の診察を受けていたが、全く思い出せなかった・・・
今回このように記憶を取り戻した時、若しやと期待したがやはりその日の記憶は取り戻せなかった・・・
かつて学生の頃、火事で両親が死んだ事自体が嘘かと調べに屋敷に戻ったが、元の建物はなく、火事の事実は本物だった・・・・
その記憶も戻らす、又忘れた物があると、この仮面の男が責めている・・・



揺らぐ炎は、ムウを苛立たせていた・・・









「恐れ入ります、ムウ・ラ・フラガ様ですね?」
「え?ええ・・・」
「マリュー・ラミアス様からの預かり物が外の車にあります。ご足労願えますか?」
「ああ、いいですが・・・」
声を掛けた男は、ムウが出入り口の扉の方に向きを変えたのを確認して、坐っていたところへ1枚の紙を置き、立ち去った。

そして、ムウの姿はこの街から消え去った・・・







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