滞在先に選ばれていた軍宿舎に連絡が入った。ムウと面会が出来るようになったと。

そして、今日初めてムウのいる研究所のような建物に入ったのである。
そこは確かに研究所だった。
白衣を着た研究員達の興味深げな視線が煩わしかったが・・・・そんなことはどうでも良かった・・・

ムウ・ラ・フラガの初めて見る状態に驚いた。
ここで自分も動揺していてはいけないと冷静を装っていた。

応接室に通され、
「ラミアス嬢?フラガという地球連合軍大佐とオーブでは共にお暮らしとお伺いしております。
そこでですが、プライベートなことながら細かい事を色々と教えてはいただけないかな?」

と慇懃無礼とも取れるほどに丁寧な口調で切り出された。

「まだ聞き足りない事があるのですか?」


「ええ、彼とフラガの血筋に関してどうしても・・・・・」

「あの力を調べたいのですが、本人が夢と現実をごっちゃにしてしまっていてね。
最近までは全く思い出しもしなかったのですよ。」

「まだ夢にだけでも思い出しかけてマシかと思っていたらあの状態になってしまって・・・・
少しでもご存知のことがあれば。」


「確かに、メンデルでキラ君と二人でザフト将校に出会って、アルバムのような物を持ち帰って来ました。」

「キラ君は別のことで疲弊していました。とても他に何かあったのかとは聞けずそのまま月日が流れて行きました。」

「自分もオーブに亡命状態で、カガリさんのご好意で名を変え生活をしていました。」
「もうムウは本当に死んだ者と皆が思っていましたから」

「だからあの巨大兵器との戦いの合間にキラ君がムウさんだと直感的に感じてくれて、命を助けてくれたことには本当に驚きました。」
「キラ君の感覚には驚きました。以前にはそのような感覚があったとは私には思えないのですが・・・」

「そのお持ち帰りになったアルバムは?」
「はい、アルバムですか?」

「ムウの荷物の中にあのアルバムはあったはずです。私が彼のAA内の荷物は引き取りましたから。」

「ただ、彼がいなくなって、彼の事を調べた時にはもう既に彼の荷物の中には無かったのです。
ムウがそれを持って行ったのか、それともいなくなってから誰かが持っていったのか。
私も、彼の遺品となったと思い込み、ほとんど悲しくて開けたことが無かったので、
いつの間になくなったのかが判らないのです。」

「漸く、それで我々は何者かに見張られていたようだと思い知りました。」
「オーブでの生活で、すっかり自分達がして来た事の重大さに気付かず、周囲からどのように見られていたのかを全く気が付かなくなっていました。」

「そしてムウの無事を知らせる言葉に、出会えるという言葉には、もう何処の陣営でも良い、顔が見たい、別れたくないと思いました。」

「初めここへ連れてこられた時は拉致じゃないかと憤慨しましたが、ムウに出会えるという言葉について来た私だということに気付きました。そして、もう2度と別れる悲しみに耐えられない。」

「彼の為になるのなら。彼が何者であっても、脱走兵であり軍法会議にかけられようが・・・
私自身も地球連合軍から追及を受けましたが、ここでムウを助ける代わりに、何事も協力をする。という司法取引をして来ました・・・」

「自分の家族が先の大戦、今回の大戦中もどのような思いで暮らして来たかを、全く思い遣りもしませんでした。
連絡もせずに、行方不明のままオーブにいた事で、どんなに残された家族が心配してくれていたかを、連合の方々から教えられて、思い知りました。」

「もう、AAの艦長ではなく、オーブの仲間の所にも戻らない覚悟でおります。あの国にいれば、今後また戦い使われます。」

「アークエンジェルはまた整備されて格納庫にスタンバイしています。あの国へはもう戻りません。」

問わず語りに語ってくれたことはあらかた調べはついていた事だったが。
ムウの回復の助けになるかは今後の成り行き任せることになるのだが・・・・
これでもうオーブにフラガ家の力は渡らないという事になる・・・・
本当にこの女の言う通りに仲間から離れるとは思えないが・・・
オーブ情報部が動いていないはずはない。厄介だな・・・


フラガ家にとってはこの女性が現れたことは朗報だったのだろう。

連絡する前に向こうからコンタクトがあったからな・・・・あちらも跡継ぎの為にはご苦労なことだな。
さて、フラガ家の情報収集も侮れないな。何処でこの情報を得たのやら・・・・
しかし、軍部のひも付きの花嫁と跡継ぎとは・・・・フラガ家もここまでかな?


穏やかな、軍人とは思えない研究所の室長の男に案内されて、マリュー・ラミアスはフラガ家の者に面会する事になった。

そして執事長に出会った彼女はムウの妻、フラガ家の夫人として迎え入れられる事となった。
すぐに軍の宿舎からフラガ家の別邸へと引っ越す事になった。

「フラガ家の女主人としてラミアス嬢をお迎えに参りました。」

「この研究所の近くに幸いなことに別邸がございまして。そこから通われては如何ですか?
そうしながらフラガ家について学んでいただけたらと思いますから。」

「ムウ様の力になっていただけるのでしょう?そのような方をお待ちしておりました。」






まだ冬は去らない。
――この地には雪が降る・・・・




ムウは漸く落ち着いて来て、ラミアス嬢と外を歩く事を許されていた・・・・
といっても研究所の限られた庭だけだったが・・・・

ラミアス嬢は、フラガ家の話をして、毎日色々と社会情勢も学んでいること、
各グループ会社の概要も判って来たこと、手を繋ぎながら語り合った・・・・

「まるで学生のよう。一から生まれ変わるから・・・」
「うん。」

不安定な狂気は殆ど顔を出さなくなった・・・・
本当のラミアスだと認識して貰うまでが大変だったが、なんとかなった。
ホッとして、大変な時を思い返した。





「マリュー・ラミアス!どうしてここへ?捕まったのか?君まで・・・・夢か?!」
「夢じゃないわ!!私よ・・・・やっと私と判ってくれるの?」

「いいや、また夢だ・・・夢だ・・・・」
「今日は、子供たちを出撃させた・・・・一人は海に沈んだ・・・・アウル・・
青い髪の可愛い少年で、機体と共に引き上げられた。
彼等が、毎日毎日遊ぼうとやって来るんだ・・・・俺をネオと呼ぶんだ・・・・ああああああ!!」

「・・・・・ステラ・・・ああ・・・ステラ・・・」
目の前の人物の手を取ってステラと呼ぶ・・・・

「ステラではないわ、私、マリュー・ラミアスよ」
「ああああ・・・あああ・ゴメンヨ・・・ステラ・・・・君を戦いにまた追い込んだのは俺だ・・・」

「シンから託されたのにな・・・・やさしい世界に帰さなかった・・・ごめんよ・・・・」
「俺だけここにいる・・・・ごめんよ・・・・ごめん・・・・みんな・・・」
「ムウ、しっかりして・・・・」

「ムウじゃない、俺は。俺は・・・・」
「ジブリールに選ばれたファントムペインの大佐だ。ネオだ・・・」

「彼らの新しい可能性を見せ付ける為に出撃した。
アーモリーワンに、新しいプラントの新造艦の式典を潰してやる為に・・・・」
「新しいガンダムの奪取のために・・・私は出撃したんだ・・・」

「もう済んだのよ、もう戦いは終わったの・・・」

「いいや、俺とあの白いザクとの決着は終わってはいない・・・・あの、異様な感じ方は普通じゃない・・・・

「奴ともう一度決着を付けるために戦いに出るんだ・・・」

「ムウ!もう終わったの・・・・戦いは終わったの・・・・お願い、思い出して・・・・」
「私を庇って、戦いは終わったの・・・」
「貴方の部下はみんな死んだわ。ファントムペインの子供たちは連合国側として戦って、もういないのよ・・・」


「まだ白ザクのパイロットがいる・・・・ザフトのミネルバと共にいたパイロットが・・・
彼との決着が残っているんだ・・・・まだ覚えている。彼を感じた感覚が・・・・
的確に、敵を無駄なく倒した奴の弾道を、覚えている。奴の雰囲気を覚えている・・・・くそっ!」

付き添って記録を取っていた研究員が、コンピュータ―の端末に映し出されたある画面を指した。
その白いザクの横に参考としてパイロットのデータがあった。

【レイ・ザ・バレル 】
 ザフト ミネルバ、パイロット。
機体は指揮官機体プレイズ・ザク・ファントム【ZGMF−1001/M】パーソナルカラー 白 
後にヤキン・デューエ戦にて、初めてラウ・ル・クルーゼによって実践使用された機体、プロヴィデンス。
その流れを汲む機体。レジェンドガンダム【ZGMF−?666S】に搭乗。
機動要塞メサイアの防衛のために出撃。
オーブ軍キラ・ヤマト准将のストライクフリーダムガンダムにレジェンドは撃墜される。
その後メサイア内部に戻り、議長の警護に行くが、メサイア爆発崩壊と共に行方不明。

「彼は、もういないわ・・・・」
「なんだって!!なぜ!なぜ俺が対戦しなければならない、決着を付けねばならない奴ばかりいないんだ!!」
「貴方の言っているパイロットは、レイ・ザ・バレル。キラに撃墜されたのよ。」
「そして、議長警護に行きメサイア攻撃の爆発に巻き込まれて行方不明よ。」

「・・・・・レイ・ザ・バレル・・・・・」
「そう、貴方のこのフラガ家の資料にある、貴方の血の所縁の人物よ。

ラウ・ル・クルーゼと同じアル・ダ・フラガのクローン体。
ラウより後に作られたらしいわね。この子もキラに倒された。もう、いない・・・・」


「わあ〜ああああ・・・・・・・ああ・ああ・あああ」
頭をかきむしり床に打ち付け悲鳴を上げるばかりだった・・・・・
額から血が滲んで来た・・・

「わあ、あ、あああ・・・・絶対、再会出来るつもりだったのに・・・、戦える喜びに満ちる感覚があったのに・・・」

「あ、ああああ・・・・なぜなぜ・・・あああああ・・・キラ・・・・お前がなぜ!!」
「わあ〜あああ・・・・なぜ俺だけ置いて行くんだ!!俺と戦え〜〜!!」

「薬を貰うわ、眠って、眠ればいい・・・・ムウ・・・眠るまで手を繋いであげるから・・・ムウ・・・」



戦うばかりの戦場に身を置いていた、この俺、ムウ・ラ・フラガ。
俺がいなければ、クルーゼにあれほど執拗につけられなかっただろう・・・・
選ばれたガンダムのパイロット達は、オーブ国のコロニー、ヘリオポリスでむざむざ殺されたりしなかっただろう・・・
ガンダムを奪取されなかっただろう・・・
そして俺を感じたから容赦なく攻撃したクルーゼ。俺もコロニー崩壊の責任がある・・・
俺さえいなかったら、第8艦隊まで全滅させられなかった。


『私にはあるのだよ!!この宇宙でただ一人、すべての人類を裁く権利がなあっ!!』


「わああっ!!あああああ〜〜〜〜〜〜!!」
暗闇の中、悲鳴と共にムウは飛び起きた。

モニターで24時間監視の職員が、慌てて薬を持ってモニタールームを飛び出した。
「処置室に運び込もう・・今夜のは酷い・・・・血止めより鎮静剤だ!」
「バイタル、取ってくれ!数値が落ちすぎるとまずい・・・俺は室長に連絡するから・・・・」
まず鎮静剤の投与をした。手で叩かれたり、殴られたりしないように二人掛りだった。
腕や手の平、頭、額と所構わず打ちつけたのか身体中血だらけになって蹲り泣き伏していた。。
室長が飛び込んできたときは少し落ち着き、ベッドに拘束されていた。


傷だらけになっても、目が覚めた時には何でこんな事になったのか覚えていない有様に、
フラガ家側もしばし困惑の様子でもあった。

どうしても夢と現実が交錯する間はもう二度とここから出られないのではないかと思われたが・・・・

出来る限り薬漬けの療法は取りたくなかった。
他の検査結果のデータが不安定になるからだった。
だが、先に精神の方を安定させる事が必要と判断された。

医者の薬の処方で徐々に回復の方向に向かった・・・・
泣き叫び、吐き出した事も手助けになったのだろうか・・・・

だが、錯乱状態の中でラミアス嬢やフラガ家の監視の無い中で、実験が行われたのは言うまでもない。
身体中に小さな傷跡が増えていたことも、ムウは覚えていない有様だった・・・・


ただ、フラガ家の筆頭執事だけは許可をしていた・・・



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そうだよフラガ(∋_∈)皆思い出して。苦しがってくれ…
想うことの苦しみで…癒される気がします。あの人のために…あの子のために。



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