小説 武男 様
アデス×クルーゼ




彼氏×彼氏「重なる時」―――

 ラウはそのまま、鬼気迫るような雰囲気で歩き、トイレの中へと入った。中には誰もいない。
 ラウはアデスを引っ張り、奥へと放った。アデスはつんのめりながら、振り返った。ラウの前髪が、彼の顔に濃い影を作っていた。
「…隊長…。」
「…やはり、無理をしていたのか?」
 アデスは眉を動かした。今目の前にいる年下の上官の声は、深い闇をはらんでいた。彼は乾いた笑みを浮かべる。
「そう…。そうだよな。
 いくら振りとは言え、私のようなものに、告白など。そう…そうだよな。」
「ち、違います!」
「何が違うんだ!?」
 仮面の下から涙が流れた。
「お前は、私の元に戻ろうとしなかった…。振り返ったけれども、私を見なかった!
 何が…どう違うと言うつもりだ!?」
「違う!」
 アデスは細い体を抱いた。
「違うのです、私は…。私は、怖くなったのです。」
「…怖く?」
「…あなたを傷つけている相手と同じだと、思われるのが。怖かった…。」
 アデスは歯を食いしばった。ラウの頬に、新しい涙が流れる。ラウはアデスの広い肩に顔をうずめ、背中にまわした腕に力を込める。
「…アデス…。」
「はい?」
 ラウは身を離した。じっとアデスを見つめる。
「お前は、変わらないでいてくれるか?ここにいてくれるか?何を知っても、何を聞いても。
 …私を、変わらない瞳で見てくれるか?」
 まるですがるような言い方だった。アデスは困ったような笑みを浮かべた。
「…他に、どんな目で見ろって言うんですか?」
 ラウは一瞬驚き、柔らかい笑みを浮かべた。
「…知るか。」
 アデスは、「はい。」と白いハンカチを取り出した。頬に付いた涙をぬぐってやる。ふいに、ラウが仮面の留め具に手をやった。
「ここもやってくれないか?」
 そう言って、金糸のような髪を舞わせながら、ふわっと仮面が取り外された。だが、瞳は閉じられたままだ。アデスは初めて見た素顔に驚いていたが、やがてゆっくりとほほ笑んだ。
「ええ。もちろんです。」
 頬を包みこんで、目に付いた涙を優しくぬぐう。
「はい。終わりましたよ。」
「ん。」
 ラウは短く返事をすると、目を閉じたまま仮面を再びまとった。二人は笑いあう。
「では行きましょうか。」
「ああ。そうだな。」
 二人はいつもの通りに、寄りそって歩き出した。
 
 
 

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