選択その後sideA―――
燃え盛るブリッジの中、アデスは溜め息をついた。
何人か死なせてしまった…。脱出艇で逃がしはしたが、彼らはこの広い宇宙で果たして生き残れるだろうか?
まぁ、自分には祈ることしかできない。
アデスは窓へと向かった。ガラスに手をつき、外を見る。そこには、黒い宇宙が広がっていた。
あの人は大丈夫だろうか?
アデスは思った。自分でも笑ってしまうが、死を前にしても体に染みついた癖は抜けないらしい。
『軍属でもなければ、日常的に染みつかんよ。』
アデスは、ふっとほほ笑んだ。あれを言われたのは遠い過去。そして彼と過ごしたのは驚くほどに短い時間。
ま、悪くない人生だった。
アデスの心は晴れやかだった。
燃え盛るヴェサリウスを追い越し、全速力で敵艦が逃げて行く。
「天使」の名を持つ艦と、「自由」と「正義」を冠する機体。そして、「永遠」を約束する艇…。
全く皮肉なものだ。
どれもこれも、彼が信じないもの。彼が信じられないもの。だがだからこそ、彼の魂を最期に救ってくれるだろう。…さて。そろそろ幕を引こうか。
アデスは誰にともなく敬礼を捧げた。アデスにも分からない。最後に出てきた軍人としての性なのか、それとも何の意味すらないのか。
ただほほ笑みの中で、アデスはつぶやいた。
「迎えに行くよ、ラウ。だからそれまで…死ぬな。」
ヴェサリウスが爆発した。
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